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第714話

「領主の権限でもって近臣が生きられるだけの居場所を確保してもらいたい。そして、近臣の配下に、家と仕事の斡旋を。仕事に関しては武官でなくとも構わない。田畑の仕事ならば人手はいくらあっても構わぬだろう」  今までのような屋敷ではなく、仕事でなく、仲間と離れることにもなるだろう。だが、それでも雨風をしのげるだけの家と、生きていけるだけの仕事を与える程度のことは領主ならば可能であるはずだ。人手が足りず耕せていない土地も多いはず。そう無理な要求ではないだろうと告げる芳次に、しかし領主たちは渋面を見せた。 「……確かに、贅沢を望まないのであれば可能でしょう。ですがそれには〝我々の状況が今と変わらない〟というのが大前提です」  帝に政を返上した時、滅びるのは本当に衛府だけか? 恭順を誓っているかは別として、領主の中には将軍からその位を賜った者も多い。主権を握った帝であれば領主の首をすべて挿げ替えるだけのことなど容易だろう。それを摂家も望んでいる。だが芳次は場にそぐわぬ穏やかな笑みを浮かべた。 「そなたらの現状は変わるまい。否、そなたらだけではなく、近臣の何人かも立場は変わったとしても栄華は変わらぬだろう。富を手放せぬのか、衛府が憎いのか、あるいは私自身が憎いのか。その理由など私は知らぬし、知る気もないが、私がこう言い切るだけの理由をそなたらがわからぬはずもあるまい。それを承知でこれ以上茶番を続けるのであれば、結局は惨殺を好むだけで、そなたらの高潔な志とやらはその程度のものということだ」

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