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第722話
どれほど待ち、耳をすませたところで芳次は同じことしか紡がないだろう。すべてを失う近臣や配下、そしてその家族を領主に保護してもらいたいと。だがそれでは真に〝すべてを失う〟ことにはならない。彼らが生きていては、浩二郎たちが望む尊皇の政にはなりえないのだ。
何も言わない春風当主もまた、芳次の側だろう。彼に恩義を感じている領主の幾人かは止めようとするかもしれないが、それでも芳次と共に春風当主も葬らなければならない。なにより春風もまた近臣で、芳次の為に弥生が走った時点で罪なのだから。
カチリと小さく刀を鳴らす、同志らに視線を向け、頷き合った。
合図を送れ。
今、終焉と正義の幕開けを。
「悪いけど、それは見逃してあげられないんだ」
優しい声音。プツリと何かが首筋に刺さったと理解するより先に視界が揺れる。
合図を送るための爆薬に火をつけなければならないのに、手はゆっくりと力を抜いてポトリと火種を落としてしまう。それは無残にも踏みつぶされて消されてしまったが、彼は見届けることすらできずに視界を真っ黒に染めた。
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