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第724話
緊迫した広い室内に響きわたる声は少し乱れている。誰もが振り返る先には、必死になって駆けてきたのだろう胸を喘がせた春風 弥生が立っていた。常に美しく清廉な姿を見せていた彼であったが、今は纏った袴はもちろん、頬や額を土で汚し、血を滲ませている。
城内であるここまで馬で駆けてくるという暴挙にでた彼はひらりと降り立ち、芳次、父、近臣、領主、そして浩二郎らに視線を向けた。懐から取り出したものを彼らの前に掲げる。
「恐れ多くも帝よりの勅書を預かって参った。そなたらも尊皇を叫ぶというのならば伏して聞けッ」
最後の言葉は自分達に向けられたものであると理解した浩二郎らはビクリと刀を跳ねさせる。確かに、帝の言葉を無視すれば、尊皇を叫んだ自分達を自らが否定することになってしまうだろう。
鶴と牡丹の描かれた紋。帝以外が用いることの許されぬそれに芳次が、春風当主が手をつき、頭を垂れる。それに倣うように、刀があちこちで抜かれているという状況にも関わらず近臣や領主らも膝をつき深々と頭を垂れた。チラと弥生の視線が浩二郎らに向けられる。
彼が――弥生が無事に帰還した。彼に託された帝の勅書には何が書かれているのだろう。
希望か、絶望か。
わからないと浩二郎は唇を噛む。だが、結局はこの好機にも関わらず膝をついて頭を垂れるより他に選択肢はない。
自分達は尊皇を掲げ、戦ってきたのだから。
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