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第727話

「止めるには、私は遅すぎた。せめて帰してさしあげたいと、ここに。私は多くを知らない。けれどきっと、弥生殿の側が彼にとっての故郷ではないかと」  ただ、そう思った。その言葉にお付きの者達がそっと木箱――棺の蓋を開く。そこに横たわるのは、戦って散ったのだと思わせることのない紫呉だった。血糊も泥も綺麗に拭われ、まるでそこにただ眠っているかのよう。  穏やかで、けれど血の気のない、常に傍らにあった男の顔。彼を見た瞬間に弥生は耐えるように瞼を閉じ、唇を噛んだ。 「……謝って、それで何が変わるわけでもない。どれほどの詫びを繰り返したとて、あなたにとって何の意味も成さないだろう。けれど、もはや詫びることしかできない。私が、光明を止められなかった。あなたは私を信じ、願いを、想いを、隠すことも偽ることもなく打ち明けてくれたというのに、私は約束したのに、結局あなたに報いることができなかった。本当に、申し訳ない」  深く、深く杜環は頭を垂れる。口を開けば嗚咽がこぼれそうになるからか、弥生は刹那の沈黙の後、ただ杜環の肩にそっと手を添えて顔を上げるよう促した。 おしらせ いつも拙作を読んでいただき、ありがとうございます! またいつもの心配性が発動してしまいまして、なかなか確定申告が進まず、ついに5日になってしまいました。流石に期日がヤバいのですが、相変わらず心配性もばんばん出ていて同時進行ができない状態なので、お話が中途半端なところで大変申し訳ないのですが、2日ほど更新お休みさせていただきます。 バッチリ確定申告終わらせて戻ってきますので、少しお待ちいただけましたら幸いです。 よろしくお願いいたします! 十時(如月皐)

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