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第729話
「杜環殿、あなたは私に謝ってくださった。己のせいだと、頭を下げて。けれど、私はあなたが悪いなどとは思いません。あなたは最初から最後まで、光明殿に抗ってくださった」
だからこそ、あの場には織戸築の私兵しかいなかったのだ。彼は口にしないが、おそらくは峰藤の領主を抑え、弥生に味方するよう促してくれたのも杜環自身だろう。
確かに杜環は光明を止めることはできなかった。だが、杜環がいたからこそ弥生はこうして武衛にたどり着けたとも言える。
「弥生殿、あなたは私を罵って良い。責めて、罵倒して、殺意を向けても良い」
もはや温もりなく横たわるだけの友を前にしてまで静謐を貫く弥生に杜環はそう言わずにはいられなかった。彼が憎む最たる存在は光明かもしれないが、光明は既に死んでいる。死体に鞭打ったところで弥生の心は晴れないし、苦しみも憎しみも和らぐことはない。
恨むことで少しでも楽になるのならば、それでも良いと杜環は思った。それを受け止めるのが、結局光明を止めることのできなかった自分にできる数少ないことだと。だが弥生は疲れたようにほんのわずか口元に笑みを浮かべる。吐息に交じるそれは自嘲だった。
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