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第752話
「……お気持ちはお察しします。痛いほどに。しかし、既に時代は移ろいました。春風殿はご当主も弥生殿も既に理解されている。ならば我々も理解しなくてはなりません。自分を偽り、言い聞かせてでも」
そう告げた杜環こそが難しいとでも言うかのように眉間に皺を寄せた。耐えるように唇を噛めば、プツリと鉄の味が広がる。
「大将を討ち取り終結したわけではありませんが、此度の一件はどう取り繕おうと戦に他ならない。戦においては勝者と敗者が存在します。衛府が滅びると決まった以上、どれだけ人を殺そうと尊皇の者達は勝者で、どれだけ人を救わんと走ったとしても春風殿は敗者だ。報われるべきは誰か、称賛されるべきは誰か。例えすべての民がそれを知っていたとしても、許されるは勝者で、裁かれるは敗者。戦とは、どこまでいっても理不尽なものでしかありませんから」
きっとこの結末を春風家は覚悟していたのだろうと、杜環はかつて弥生と語らった日のことを思い出す。
もしも時代が変わる時が来たとしても、戦だけは避けたい。そう弥生は言っていた。自らにも大切な者がいる。だからこそ、民から大切な者を奪いたくないと。
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