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第765話
「……きっと、毒を呷らなかったとしても難しかったでしょう。人は絶望に染まりきっては生きることができませんから」
その気持ちが、今の弥生には痛いほどに理解できた。
何のために戦ったのか。何のために走ったのか。自分の中の答えは明確であるのに、たどり着いた先に待っている者はいない。
「あの子は良くも悪くも〝諦める〟ということを知るからな。周を連れてきたのが自分であるという責任も感じていただろう」
「しかし父上、なぜ蒼や庵の者達なのです? 我々と彼らに関わりがあるからですか? 衛府に与する者の近辺は、それがどんな些細な関りであろうと排除しようとしたということでしょうか」
ならば庵の者だけではなく、近臣に関わった多くの一般人が襲撃されたのだろうかと眉根を寄せた弥生に、父は小さく首を横に振って否定した。
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