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第766話

「いや、火事はともかくとして庵の者達以外でこのような事は起こっておらぬし、話も聞かん。だた、覆されぬ事実として、蟄居中に近臣の松中殿が何者かに殺害されたらしい。そのことに動揺でもしたのか、ボロボロと情報が転がり落ちてな。どうやら、松中殿はずっと以前より過激派の者達と通じていたらしい。織戸築の光明殿とも頻繁に密会していたとか」  衛府に忠義を誓ったはずの近臣でありながら、衛府が滅ぶ策に手を貸していたのかと責められるべきであろうが、残念ながらそういった近臣は松中以外にも存在する。国のためにあらねばならない近臣は、いつしか自らの地位と権力を守ることを第一に考えるようになってしまった。 「口封じなども考えたが、状況を考えるに過激派の者達ではないだろう。何より、屋敷から使用人はもちろんのこと、囲われていた女たちまでもが一斉に姿を消したらしい。凶器は屋敷で使用されている包丁だそうだ。この改革に乗じて屋敷の者達が反旗を翻したとも考えられる。――考えられるが、私は環境や待遇を不満に思っての強行とは思えない。もっと別の感情があったのでは、と考えている」  明言を避けてはいるが、父が考えていることなど弥生には手に取るようにわかる。

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