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第767話

「……すべては私の傲慢さゆえ、その結果がこれなのですね」  腕の中にいる柔らかな存在はとても温かい。弥生はそっと、サクラの頭に頬を寄せた。 この小さくいとけない子から、家族を、光を、ぬくもりを奪ってしまった。 「弥生……」 「助けてあげられると、思っていたのです。父上、たとえ贅沢は無理でも、人並みの暮らし、人並みの幸せ、人並みの感情を持てる場所を与えてあげられると」  腹がくちくなるまで食べられて、雨風に怯えることなく眠れる場所。自分を殺すのではなく、心のままに泣いて、笑って、願いを口にし、そこへ走っていける。ただひたすらに、あたたかな居場所を。 「弥生、そう自分を追い詰めるな。雪也をひきとった時、こうなることは誰にも予想はできなんだ。何より、ああしなければ雪也はずっと松中殿の屋敷に囲われて身を捧げ続ける人生しかなかっただろう。そうなれば必然的に周の命もなかった。由弦もサクラも、ここにはおるまい。確かに、もっと上手くできる方法はあったのかもしれん。だがそれをできなかったはそなたの責ではない。私もまた、できなかったのだ」

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