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第768話

 何かが違っていれば未来は変えられたかもしれない。そう思ってしまうのは人である以上仕方のないことであるが、どれほど頭を働かせようとすべてを守りきる方法など今をもってしても思い浮かばない。  弥生の身体はひとつで、手足となって動く春風の者はそもそも数が少ない。ならばもっと私兵を蓄えておくべきだったかと言われれば、それで今のように将軍の信頼を得られていたかは怪しい。国を動かす者が相手である以上、そして守らなければならない者が数えきれないほどの民であった以上、何かを諦め、多くを取るしかなかった。 「私は雪也たちの命を秤にかけて民の命をとったつもりはありません。でも父上、結果的に私は、秤にかけていたということでしょうか」  弥生はずっと大切な者のために走ってきたつもりだった。彼らを生かさんがため、彼らが笑顔であれるため、彼らの明日が当たり前にくるように。その心が揺らいだことは一度も無いのに、いつの間にか己は大切と豪語していた者達を秤の上に乗せていたというのか。

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