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第771話

「私が蟄居明けすぐに向かう場所と考えてすぐにここを思い付く者は少ない。特に領主や尊皇の者達にはな。そうであるよう、注意を払っていた。だが、お前たちはここに来た。真っ直ぐに、何の迷いもなく来なければありえない早さで。ならばその者は松中殿から私と雪也たちの関係を聞いている者なのだろう。そして雪也はずっと、尊皇の者を治療し住まわせていた。その者の名は浩二郎。もっとも、その名とて真かどうか怪しいものだが、それはもう、どうでも良い」  何か間違いがあったか? と視線を向ける弥生に、浩二郎は視線を彷徨わせた。そもそもここは浩二郎にとってひどく居心地の悪い場所だ。胸が忙しなくざわついて落ち着かない。 「……どうぞお屋敷に戻ってください。領主の皆さまがお待ちです。あなたと、春風当主に話があると」  促すように浩二郎が手を差し出すが、それをチラと見ただけで弥生は取ろうとしない。静かに息をついて、風を感じるように瞼を閉じた。

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