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第773話

「……領主方は皆、あなたたち春風親子を救わんと必死です。彼らは口を揃えてあなた方こそ報われるべきと言います。今ならば、その言葉の意味も理解できます。あなたは英雄だ。我々が成したかったことをたった一人で成し遂げ、衛府を滅ぼしてくれた。我々も、あなたや、あなたを育てた春風には報われてほしいと思っているのです」  だからこそ迎えに来たと告げた浩二郎に、弥生は刹那、呆然とするように目を見開いた。そしてその言葉がジワジワと理解でき、乾いた笑いが込み上げる。 「はッ、あはははは……、報われてほしいか。ははッ、はははッ……。そんな言葉をお前たちから聞くことになろうとは」  あはははは、と力ない笑いが込み上げて、どうにも止まらない。 「私は侮られているのか? 我が身さえ安泰であれば何をも気にすることの無い人間だと。それとも、私は何も知らないと思われているのか? でも、あぁ、そうだな。私は何も知らなかった……」  あの子達に迫っていた危険も、すべての真実を知っていたのだろう紫呉の秘密も。  なにひとつ、今の今まで知らなかった。

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