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第55話

「……由弦、さすがにドアが壊れるからあれは止めろ。つか、確か今日は雪也も家に居るんじゃなかったか? 寝てたらどうすんだよ」  確実に起きたぞ、と頭を抱える紫呉であったが、由弦はちょっと申し訳なさそうな顔をしつつも紫呉の横に座りながら大丈夫だと告げた。 「雪也は起きてたぞ。雪也の部屋からまっすぐここに来たし、流石にまだ寝てないだろ。眠そうでもなかったし」  でもごめん、と俯いた由弦の頭にシュンと垂れた犬の耳が見えるのは気のせいだろうか。そんなことを思いながらサクラを抱き上げた紫呉は、その小さな手を持ってペシペシと由弦を叩いた。 「め!」  そんな可愛らしい言葉で、それもサクラのニヒルな笑みが目の前にある状況で怖さなど微塵も無い。思わず由弦がプッ、と吹きだせば、またサクラの小さな手でペシペシと額を叩かれた。

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