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第56話

 ひとしきり戯れた後、紫呉は抱いていたサクラを足元にあるフカフカのペットベッドに降ろし、再びソファに背を凭れさせた。サクラが満足そうに丸まるのを見て、チラと由弦に視線を向ける。 「で? んなに急いで、何だったんだ?」  良いところのお坊ちゃん育ちではあるが、前世が影響しているのか否か、由弦は蜘蛛やゴキブリなどといった虫が出ようと驚いたり悲鳴をあげたりすることはない。ならば不定期に開催される小テストで散々な点数を取ってしまったのだろうかと考えたが、由弦は雪也の部屋から真っ直ぐに来たと言っていた。ならば雪也に教えてもらった方が何倍も効率が良いだろう。残念ながら紫呉に勉強を教えるだけの頭の良さも器用さもない。では何があったのか――そうつらつらと考えて現実逃避をしていた紫呉であったが、由弦はそんなことお構いなしに勢いよく顔を近づけた。  そう、こんな由弦の突撃は、なにも今日が初めてではない。

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