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第71話
「誰が、なんて言葉を濁さずに〝由弦が〟って言ってやればよかったのに」
「いやぁ~、それは露骨すぎるかな~って」
クスリと笑いながら、蒼は存在すら忘れていたカフェオレに口をつけた。すっかり冷たくなってしまったそれに苦笑する。
「誰がどう動いてどうなろうと、僕には関係ないと言えば関係ないんだけどね~。でも、見ていてもどかしくはあるよ」
「そりゃもどかしいでしょ。ずっとモジモジした両片思いを強制的に見せられてるようなもんなんだから」
紫呉も紫呉で、ズバッと勘違いなんてしようもない核心的言葉を言えば良いのに、と湊は少し投げやりな気持ちになる。そんな湊の胸の内を察しているのか、蒼がクスクスと笑った。
「どんな方法でも良いから、早くくっついちゃえば良いのにね~。由弦がどれだけ悩んだって、昔から紫呉先輩は由弦だけが特別なんだから」
二人とも面倒くさい事この上ない、と笑う蒼に湊はほんの少し目を見開いた。ゆっくりと蒼に視線を向ける。
「蒼、もしかして……」
どう言ったら良いのか。そう言葉を探すように唇を震わせた湊に、蒼は「ん?」と首を傾げた。その茶色い瞳をジッと見て、湊は小さく苦笑する。
「いや、何でもないよ」
「そう?」
どうしたんだろう、とさらに首を傾げる蒼に、湊はゆっくりと首を横に振った。
「うん、何でもない」
何でもないよ。
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