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第70話
そしてしばし無言の時間が続き、もうじき周が大学から帰ってくるだろう頃に由弦は手を止めて固まった身体を解すようにうーん、と大きく伸びをした。そして勉強道具一式を抱えて立ち上がる。その様子にやるべきことは終わったのだろうと見て、蒼は声をかけた。
「ねぇ、由弦。僕は思うんだけどね」
優しく、しかしどこか真剣な声音に由弦も視線を向ける。茶色の瞳が真っ直ぐに由弦を見ていた。
「別に行動を起こすのは紫呉先輩じゃないといけないなんて、そんな決まりはないよ。そもそもこういったことに型なんてないんだから、誰がどう動いたって、全部自由でしょ?」
蒼の言葉に由弦は小さく視線を彷徨わせた。
誰がどう動こうと、自由……。
「そう、だな。難しいかもしんねぇけど、でも、そりゃそうだ」
ありがとな、と由弦は笑い、二階にある自室へと足を向けた。パタンと扉が閉まる音が響いて、湊は静かに蒼に視線を向ける。
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