「ごめんね～。ちょっとさ、頼まれてほしいことがあって」 　顔の前で両手を重ねながらヘニョリと眉を下げる蒼に由弦は首を傾げる。同じようにサクラが首を傾げたのを見て、蒼はクスリと笑った。 「湊が忘れ物したらしくてね～。でも取りに帰ってたら次の講義に間に合わないから届けてほしいって〝れんトドちゃん〟にメッセージが来たんだ」 　れんトドちゃん――とても可愛ら、しい？　名前のそれは、この世界にあるスマートフォンの一種である。別に独占的に経営を行っているわけではないが、れんトドちゃんは独自のセキュリティーとシステムを誇っており、これ一台で通話やメッセージのやり取りはもちろん、世界に発信できる投稿サイト〝トドちゃん〟で日々の生活やちょっとした胸の内などを投稿できたり、〝トド動画〟で動画を投稿したり視聴できたりする。名前はちょっとホワホワしているが、老若男女に使いやすいそれは、結果的に他の追随を許さず、皆が持つようになった。ちなみに〝れん〟は連絡のれんで、〝トド〟は心や言葉を相手に届けるのトドであるとは由弦の母の言である。決して海にいるトドではないのだが、名前が名前なのでマークには可愛らしいトドがモチーフのキャラクターが描かれている。〝ちゃん〟はなんとなく可愛いでしょう？　とのことだ。 　金剛寺社が誇る〝れんトドちゃん〟。社名の通り、由弦の父が社長を務める会社のヒット商品である。なお名付け親は由弦の母だ。