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第108話

「俺は知ってる。お前が見たものも、その先も。お前が望むなら、俺はすべてをお前に話してやる。隠し事はしない。それがどんなものであったとしてもだ」  俺は知っている。それは以前にも紫呉が口にしていた言葉だ。おそらくは由弦を思って〝知っている〟という事実以外は何も口にしなかったけれど、今は話しても良いと言っている。それが指し示す答えはひとつ。由弦に押し寄せてきた〝何か〟は、決して由弦が生み出した妄想の産物でもなければ、気が狂ったわけでもないということだ。 「少しは落ち着いたか? なら、サクラと一緒に俺の部屋に行くか。流石にずっとここにこうしているのも問題だしな」  由弦はまだそこまで考えが至っていないだろうが、ここは後輩組が暮らす場所の玄関だ。弥生や優ならばともかく、雪也達にこの場を見られるのはあまり良くない。彼らは少し前までの由弦と同様、何も覚えていないのだから。 「俺らの方なら大丈夫だから。行くぞ」

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