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第109話
泣きすぎてボンヤリとしている由弦を紫呉は立たせる。危ないからサクラは紫呉が抱こうかと手を伸ばしたが、ボンヤリとしていたはずの由弦が嫌だというようにサクラを強く抱きしめたため、そのままにすることにした。サクラも由弦の腕の中で安心したように寛いでいるから、落とさないかだけ注意してみていれば大丈夫だろう。
由弦を連れながら、手早く雪也にメッセージを送る。由弦の様子を伝えてくれた彼ならば、この短い文章であったとしてもなんとか読み取ってくれるだろう。
「適当に座って良いぞ」
部屋の扉を閉めながらそう言うが、由弦は混乱と泣き疲れで動こうとしない。彼の腕だけがサクラを離すまいと力を持っているかのようだった。
そうなるのも仕方ないか、と紫呉は由弦の腰に手を回して促す。由弦はずっと何も知らない様子だったし、先日自分は以前会ったことがあるのかと聞いてきた時もそれ以上の何かを明確に思い出しているようではなかった。何が切っ掛けなのかはさっぱりわからないが、これほど取り乱している様子を見るに、先程急にすべてを思い出したのかもしれない。ならば混乱して泣き叫ぶのも、呆然としてしまうのも無理からぬことだ。紫呉とて、弥生や優が側にいてなお混乱し、不安定になっていたのだから。
「なぁ、由弦。聞いて良いか?」
安心させるようにベッドを背凭れにして座った己の足の間に由弦を座らせる。そっと促せば、由弦も慣れたように紫呉の胸に背を預けた。サクラは久しぶりだと言うかのように寛いで由弦の腹に顔を擦り付けている。
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