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第110話
「さっきの言葉を聞くに、お前は俺を思い出してる。なら、お前の目に映った俺は、どんな姿だった?」
一応の確認だと紫呉が肩を撫でれば、由弦もボンヤリとしながらも頷いた。そしてゆっくりと瞼を閉じる。
朧げだがハッキリと見える。そんなちぐはぐな感覚。彼は――、
「時代劇で見るような袴を着てて、身長よりも長い、槍を……」
そして太陽を背に、笑っていた。明らかに大きな力を持っているというのに、その手は拳を握ることなく、由弦に差し出してくれた。
「ずっと一緒だって、言った。サクラと、ずっと一緒だと。そしたら、一緒に連れて行ってくれた」
あの、優しい庵に。
ポツリ、ポツリと話す由弦に相槌をうちながら紫呉もまた瞼を下ろす。
「そうか……。けっこう、思い出したな」
彼の中に記憶が無い事を悲しんでいたはずなのに、紫呉の心は何故か一向に歓喜しなかった。この子が泣く姿を、見たからだろうか。
「……紫呉先輩」
振り返り、涙に濡れた瞳が紫呉を見つめる。呼びかけに瞼を開いた紫呉もまた、真っ直ぐに彼を見た。
「知っていることを全部、話してくれ」
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