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第148話

 本当はただ、幸せを祈ってやらなくてはならないのに。そこに自分がいなくても、それもまた由弦の人生だからと諦めてあげなくてはならないのに……諦めることができると、その時がきたら笑ってやれと言い聞かしてきたのに。  由弦の記憶が戻って歯止めが効かなくなっているのだろうか。いつもは抑え込めたはずの感情が暴れ回って言うことを聞かない。 「お前がなんか勘違いしてるのなんてわかってた。お前はわかりやすいからな。何がキッカケかは知らねぇが、俺が雪也を好きだなんて勘違いしてたんだろう。俺にとって雪也は特別だって。訂正したかったが、どうすれば良いかわからなかった。俺は弥生や優みてぇに口が回らねぇからな」  確かに紫呉にとって雪也は特別だった。けれどそれをどう説明すれば良かったのだろう。前世なしにこの感情は語れない。少なくとも今の雪也はそれなりに暮らし、それなりに幸せそうなのだから。そんな人間を心配していると言っても説得力がないし、何より今の世界では雪也も他の皆もほぼ同時に出会ったのだ。雪也を気に掛ける理由がない。そんな状態で何かを言ったところで由弦の勘違いを加速させてしまうだけだと、遠回しに様々な言葉で伝えてみたが、結局記憶が戻ったところでこの勘違いは何一つとして解決はしなかった。  紫呉は忘れていたのだ。由弦は善意の塊だが思い込みが激しいことを。そして紫呉と同じくらい考えることが苦手な性格なのだということを。そんな相手に何を言ったところで、それが遠回しである限り伝わるはずもない。

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