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第147話
否定はしない。その言葉が小さな棘となってチクリと由弦の胸を刺す。だがそんな由弦のことなどお見通しなのか、紫呉は小さく笑った。
「でも、いつからかそんな義務なんてどうでも良くなっちまったな。お前はどうしたって俺の感情を掻き乱す。良い意味でも、悪い意味でも」
ははは、と紫呉は笑って、そして深いため息をついた。何かを抑えるように、あるいはもう諦めるように乱雑な手つきで髪をかき上げる。そして由弦を見て、その手を取った。力を込めて引っ張れば、ただ立っていただけの由弦は簡単に紫呉の腕の中に飛び込む。その体を抱きしめ、柔らかな髪に頬を埋めた。
「義務だけなら、こんなことしたいなんて思わなかっただろうに。義務だけなら、お前が誰を好きになろうと、別の誰かと結ばれようと、俺は心から祝福してやれただろうに。なのに、なぁ、由弦。俺はお前の隣に別の誰かが立つと想像しただけで、暴れて、叫んで、何もかも壊してしまいたくなる」
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