60 / 368

◆三月◆一日『豚の日』

 課題をしているはずの晴日が、ノートの余白に何か真剣に書きこんでいる。いや、描きこんでいるのだ。極端に簡略化されたその落描きは……。   「何描いてんの、豚?」 覗いてきた信周を見上げ、晴日はむっと唇を突き出した。   「違うもん。くまだもん」 「えっくま? くまはこうだろ?」    信周が晴日のくまの横にもう一匹動物らしき物体を描き始める。こちらは凝りすぎで、もはや正体不明になっている。 「うははは、たぬき~」 「それならこうだ」 「ぶへへへへっ」  お絵描き大会が始まった。ノートには奇妙な動物の絵がどんどん増えていくのに、晴日の課題は一向に進まない。

ともだちにシェアしよう!