91 / 368

◆四月◆一日『エイプリルフール』

「ね、ノブくん、コンビニ寄ってこ?」 「おう、何買うの?」 「えっとね、なんかちょっとお腹すいちゃってぇ」  コンビニを指さす晴日を見て、信周のいたずら心がむくむくと頭をもたげる。信周は急に思い出した風を装って、「そういえば」と呟いた。   「今日って確かチキンが半額なんだよな」 「えっほんと? やったぁ」  目をキラキラさせて喜ぶ晴日に、少しだけ罪悪感。でも子どものような晴日がかわいくて、信周は思わずくすりと笑った。 「何笑ってるの?」 「嘘だよ、エイプリルフール」 「え、半額じゃないの……」  途端に晴日はしゅんとなる。いつの間にかコンビニの前だった。   「あ……」  俯いていた晴日が急に信周の顔をじっと見つめて立ち止まった。 「ノブくん鼻毛出てるよ」 「えっ、どこ?」  信周はパッと手で鼻を押さえた。次の瞬間。 「うっそだよーん、うへへへへ」 「やったな?」 「さっきのお返しだよーだ」    晴日は手を叩いて跳び上がった。追いかけてくる信周から逃げるように店内へ飛び込む。  ラッキーなことに、その日はなんとチキンが二十円引きだった。信周にチキンとオレンジジュースを買ってもらって、上機嫌な晴日であった。

ともだちにシェアしよう!