323 / 368
十七日『晴日の誕生日』
「いらっしゃい、ま……せ」
突然バイト先に信周が現れた。驚いて固まる晴日の前で、涼しい顔でケーキを選んでいる。
「恋人の誕生日なんですけど」
そう言って信周は悪戯っぽく笑った。
「おススメはどれですか?」
信周は晴日に尋ねた。まるで「どれが食べたい?」とでも聞くように。
「えと……この柿のタルトが新作で……その……」
「じゃ、それください。誕生日のプレートも」
「……はい」
「メッセージは『ハル、愛してるよ』で」
「……」
「あ、やっぱり自分で書こうかな。チョコペンありますか?」
「っ……あ、こっこちらに」
終始しどろもどろで接客した晴日は、タルトとチョコペン、そして『2』と『1』のキャンドルを買った信周が店を出ていくと、真っ赤になった頬を両手で押さえて深呼吸を繰り返した。
ともだちにシェアしよう!