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第1話

 包文維(ほう・ぶんい)は、隣のリビングからの物音で目を覚ました。  無意識のうちに、隣に眠っているはずの恋人へと手を伸ばす。 「?」  しかし、そこに、愛しい恋人の姿は無かった。 「え?」  やっと覚醒した文維は、ベッドの上に起き上がり、リビングから響く、聞き慣れない物音に眉を寄せた。 「子供?」  それは幼い子供たちの嬌声のように聞こえる。時折、楽しそうな笑い声も混じっている。  煜瑾とは「婚約」した仲とは言え、もちろん2人に子供などいるはずもない。  (とう)家には親戚も多いが、子供を預かるという話も聞いていない。 「まさか…」  文維は、いつかの、決して愉快とは言えない体験を思い出した。  それを確かめるためには、寝室を出るしかない。腹を(くく)った文維は、ベッドの足元に畳んだままのナイトガウンを乱暴に掴み、サッと羽織ると寝室のドアを開けた。 「きゃ~っ」「まて、まて~」「まって~」  そこに居たのは、小さな3人の子供だったが、文維には少なくとも2人には見覚えがあった。 「そこまでです、唐煜瑾(とう・いくきん)羽小敏(う・しょうびん)」  文維の声に、鬼ごっこに興奮していた子供たちは、ピタリと動きを止めた。  だが、それもほんの一瞬のことで、すぐに、まるで次の楽しい遊びを見つけたように、3人は声を上げて、心から楽しそうに笑った。 「そして…、多分、もう1人は申玄紀(しん・げんき)ですね」  呆れたように言う文維を無視するように、3人の子供たちは嬉しそうに文維の長い脚に(まと)わりついてくる。 「わ~い、文維おにいちゃま~」「文維にいちゃんだ~」「ぶんい~にいにい~」 (ウソだろ、おい…)  前回幼児化した煜瑾は、まだ最初の内は大人の意識を保っていた。それなのに、今回は3人が3人ともすでに完全に子供の精神状態らしい。 「ちゅぎは、文維にいちゃんがオニ、ね!」 「は?」  突然の小敏の発言に、文維が戸惑っているうちに、小さな子供たちは広い嘉里公寓(ケリー・マンション)の部屋中を駆け回っていく。 「ま、待ちなさい!」  怪我でもさせてはいけないと、子供たちの動きを止めようとする文維だが、もはや収拾がつかない。  キャーキャーとはしゃぎながら子供たちは走り回り、文維は振り回されるばかりだ。 (む、無理です…)  絶望した文維は、あまり望ましくない手段を選ぶことにした。

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