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第5話

 煜瑾は、ご機嫌だった。  右手に恭安楽、左に文維を侍らせて、子供用にひと口サイズにカットされたサンドイッチを、好きな物だけ選び、出来立てのバナナジュースに舌鼓を打っていた。 「はぁ~、おいしいでしゅね~」  穢れを知らない、清らかな笑顔で、煜瑾は恭安楽と文維の顔を見比べた。 「じゃあ、次は、このキュウリのサンドイッチはどうですか?」  文維が差し出すと、逃げるようにギュッと恭安楽にしがみ付いた。 「や~ん。キュウリはイヤでしゅ~」  甘えて、グリグリと顔を恭安楽に押し付け、煜瑾はチラリと文維を恨めし気に見た。それが、3歳児だというのに、文維には艶めかしく見え、ドキリとする。 「じゃあ、何がいいのですか?」  ご機嫌を取るように文維が訊ねると、煜瑾は相談するように恭安楽の顔を見上げた。 「文維お兄ちゃまに、煜瑾ちゃんの好きなのを教えて差し上げたら?」 「ん~、煜瑾は、イチゴがしゅき~。でも~、タマゴもしゅきなのでしゅ~」 「じゃあ、2つとも食べますか?」  文維が笑顔でそう言うと、パッと晴れやかな顔になり、煜瑾はニコニコして文維が差し出した、イチゴと玉子のサンドイッチをそれぞれ片手に1つずつ受け取って、満足そうにしていた。 「おかあしゃまは?おかあしゃまは、サンドイッチ、めし上がらないのでしゅか?」 「じゃあ、お母さまも、煜瑾ちゃんと一緒にいただくわ。お母さまはキュウリにするわね」 「うふふ」  幸せいっぱいの煜瑾だったが、その時寝室のドアが開いた。 「ちがうもん!」  そこには、仁王立ちになった小敏が、怖い顔をして煜瑾を睨みつけていた。 「あら、小敏、起きたのね?どうしたの、随分とご機嫌が悪いようだけど?」 「ちがうもん!安楽おばしゃまは、煜瑾のおかあしゃまじゃないもん!」 「!」  小敏の爆弾発言に、煜瑾の顔色が変わった。 「お、…おかあしゃま…」  見る見るうちに、大きな黒い瞳が潤んでくる。 「おかあしゃまは、煜瑾のおかあしゃまだもの!」  珍しく、大人しい煜瑾が大きな声で言い返した。 「ちがうもん!おばしゃまは、文維にいちゃんのおかあしゃまだもん!」 「…小敏のイジワル~」  そのまま、煜瑾は恭安楽の膝の上に顔を埋めて声を上げて泣き出した。 「あ~ん、あ~ん。おかあしゃまは~、煜瑾のおかあしゃまでしゅよね~。煜瑾は、おかあしゃまが大しゅきなのでしゅ~。あ~ん、あ~ん」  身を震わせて、激しく泣く煜瑾の姿に、恭安楽も胸を詰まらせる。 「ちがうもん!」 「…小敏、よしなさい」  さらに追い打ちを掛けようとする正直な甥を、安協楽は静かに制止した。 「だって、ボク、まちがってないもん」 「だとしても、もうおよしなさい。煜瑾ちゃんがこれほどに泣いているのよ」 「だって…!」  母とも慕う大切な叔母や、大好きな従兄(いとこ)を煜瑾に独り占めされ、我慢できずに発した小敏の言葉だった。 「小敏」  決して大きな声ではないが、厳しい口調で恭安楽がもう一度(たしな)めた。

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