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第13話

 息子とお気に入りの甥に買い物を任せた恭安楽は、ふっと真顔になって、小さな子供たちが眠っている部屋へと向かった。  ベッドの上には、純真な天使のような寝顔の煜瑾と玄紀がいた。  その愛くるしさに、恭安楽も思わず頬を緩めてしまう。  しばらく、そんな寝顔を見つめながらベッドの端に腰を下ろしていた恭安楽だったが、煜瑾の長い睫毛が震えたのに気付いた。  じっと様子を窺っていると、ゆっくりと煜瑾の瞼が開いた。 「おかあ…しゃま…?」  すぐそこで微笑んでいる恭安楽に気付き、眠い目をこすりながら煜瑾が囁いた。 「お目めが覚めましたか、煜瑾ちゃん?ご機嫌はいかが?」 「おかあしゃま!」  大好きなお母さまの笑顔に迎えられ、幼い煜瑾は嬉しくて思わず首に縋りつくようにして抱き付いた。 「あらあら随分と甘えん坊さんね、煜瑾ちゃん」 「だって~、煜瑾は、おかあしゃまが大好きなのでしゅ~」 「まあ、お母さまも煜瑾ちゃんが大好きよ」  2人は嬉しそうにそう言って、ギュッと抱き締め合った。 「ねえ、煜瑾ちゃん?」 「なあに、おかあしゃま」  清らかで、あどけない笑顔の煜瑾に、恭安楽もニコリとして訊ねた。 「ねえ、これは煜瑾ちゃんの『夢』でしょう?」 「…?…ゆめ?」  言葉の意味が分からないという顔をして、煜瑾は稚く首を傾げた。そして、クスクス笑いだす。 「煜瑾は~ぁ、おかあしゃまが~ぁ…大しゅき~」  煜瑾はそう言って、いかにも幸せそうに恭安楽に縋って天使の笑顔を浮かべた。  そんな姿に、恭安楽も心から和む。それでも、今は、どうしても確かめたいことがあった。 「ねえ、煜瑾ちゃん。これは煜瑾ちゃんの『夢』で、煜瑾ちゃんの大好きな人ばかりが存在する世界でしょう?だったら、どうして…」  恭安楽は煜瑾を膝の上に抱き直し、その可愛らしい笑顔を正面から覗き込んだ。 「どうして『お父さま』は、お姿をお見せにならないの?」 ***  小敏の予言通り、年末で大混雑のはずの外資系巨大スーパーマーケットだったが、なぜかそれほど待つことも無く駐車場に入り、難なく店内入口に近い場所に駐車することができた。 「どういうコトなんだ」  まだまだ理性で答えを出そうとする文維に、小敏はヘラヘラと笑っている。 「いいね~、夢って便利だよね」  車を降りた2人は、肩を並べながら店内へと向かった。  歩きながら、文維は何としても答えが欲しくて従弟を問い質してしまう。 「それで、これが誰の夢だか分かったのか?」 「その前に…」  小敏はそう言って周囲に人がいないことを確認して立ち止った。 「1つだけ聞きたいんだけど」  何事かと緊張する文維に、小敏はニヤリと笑った。 「この世界が誰の夢の中であるのか知るのって、そんなに大事?」 「え?」  一瞬、さすがの文維も返答に迷った。しかし、すぐに持ち前の聡明さで結論を出す。 「夢を見ている人間を見つけ出し、目覚めさせないと、我々は一生この夢から現実には戻れない」 「え!それは困る!年末に、担当さんに原稿を渡すことになってるのに」  ようやく小敏も現実的に物を考えられるようになってきたらしい。 「そうか~。多分、この夢は、玄紀の夢だよ」  店内で大きなカートを借りると、さっそく恭安楽から預かった買い物メモには書いていない、自分の好きなお菓子から入れていく小敏は、あっさりとそう言った。 「あの、赤ん坊の玄紀の夢だって?」  文維は、あのあどけない幼児の笑顔を思い出し、信じられないというように首を振った。 「その証拠に、包家の叔父さまが出てこない」 「うちの…父?」  言われてはじめて文維は、この夢の中で父親の顔を見ていないことに気付いた。

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