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第12話

 憂い顔をする文維に、小敏はニヤリとした。 「文維のそう言う顔、セクシーだからやめてよね」  からかう小敏に、呆れ果てた文維は、考えることに疲れたように小敏と同じくお菓子に手を出した。甘いものが苦手な文維は、小袋に入ったミックスナッツを開き、一粒ずつチマチマと口に運ぶ。 「明日になれば、答えが出るかもよ」  何を思ったのか、小敏がそう言った。  明日は春節。  まさに新年の始まりだ。何が起きるのか、文維は不安になりながらも、煜瑾と迎える初めての家族との年越しを少し楽しみにしていた。 「文維~車を出してちょうだい。小敏は…」 「ねえ、叔母さま?」  慌ただしくキッチンから出てきた恭安楽の言葉を、いきなり小敏が遮った。 「なあに?」  相変わらず、こんなに忙しくしている時でも、恭安楽は苛立ったりはしない。おっとりと、不思議そうに見目麗しいお気に入りの甥っ子を見返した。 「買い物してくるものは決まってる?」 「ええ。ここに、メモしてきたわ。お父さまに頼まれた物もここに…」  そう言って恭安楽が手にしたメモを目の前に差し出したのと、身軽な小敏がソファから立ち上がり、映画のアクションシーンさながらに、ヒョイっと叔母の目の前に立ったのは、ほぼ同時に、文維には見えた。 「買い物は、ボクと文維とでして来るよ。街は人も多いし、叔母さまだって疲れちゃうでしょ?それに、煜瑾がお昼寝から目覚めた時、叔母さまが居ないと泣いちゃうかもしれないし」 「ああ、煜瑾ちゃんが泣いたりするのはイヤだわ。玄紀ちゃんも、きっと一緒に泣いてしまうし…」  小敏、恭安楽の言葉に、ニッコリと人タラシの笑顔を添えて応えた。 「だから、叔母さま。お買い物はボクたちに任せて。何かあったら電話するし、心配しないで」 「そう?やっぱり小敏は気が利いて、優しい子ね。文維も見習わないと」  満足そうな母が添えた一言に、文維は肩を(すく)めた。 「じゃあ、叔父さま~、行ってきま~す」  小敏はひときわ大きな声でキッチンに向かって叫んだ。 「ああ、気を付けて」  だが文維の父は声だけで、顔を出すことも無く、今夜の食事や餃子の準備に忙しいようだった。 「じゃあ、行こうか、文維」 「ああ…」  この時、文維は、小敏のニタリとした表情に引っ掛かった。小敏は何か知っていて、文維と2人になれる場所で話そうとしているのだろう。 「では、お母さま。何かあったら、私に電話下さいね」 「ん~、多分、小敏に電話しちゃうと思うわ」 「お母さまっ。ふざけないで、煜瑾のこと、頼みましたよ」  文維に睨まれ、茶目っ気たっぷりの恭安楽は、舌を出して、まるで女学生のように顔をしかめた笑い方をした。それがむしろ年齢不詳の妖精のようで、小敏は、いつまでも若々しくチャーミングなこの叔母が大好きな理由の1つだった。 「いってらっしゃ~い。気を付けてね、小敏。それから、文維も」  オマケのように言われ、ちょっとムッとした文維だったが、顔には出さず、車の鍵を手に取った。 「で、どこへ?」  文維に訊かれて、小敏は叔母から預かった買い物メモを見た。 「う~ん、スーパーでいいんじゃない?」 「ウォルマート?」  外資系の巨大スーパーを目指すことになったが、車に乗り込みハンドルを握った文維は、ちょっと眉を寄せた。 「駐車場、混んでるだろうな」  そんな文維を小敏は笑い飛ばした。 「そんな心配はいらないよ、きっと。だって、この世界は誰かの夢なんだろう?」  小敏の言葉に、文維は理解に困ってますます頭を悩ませるのだった。

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