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第21話

「あれ?」  自分のスマホを開いた文維は思わず声を出してしまった。 「どうしたの、ウィニー?」  息子の声に、煜瑾を抱いたままの恭安楽が振り返った。 「あ、ああ。いえ…」  一応返事をしながらも、文維はスマホのアドレス帳を確認するが、やはりそれは無い。 (玄紀のスマホの番号はあるが、実家の申家の電話番号が入ってない…)  一瞬戸惑ったものの、すぐに文維は気が付いた。 (今の玄紀がスマホを持っていないなら、実家にあるのかもしれないな)  文維は、これが夢の中なら何とかなるのではないかと、珍しく楽観的に判断した。 「おかあしゃま~、煜瑾はね~、アイスクリームが食べたいのでしゅ~」 「まあ、お母さまも今、そう思っていたの。でも、お父さまのお食事ももうすぐだし、どうしようかな~って考えていたのよ。煜瑾ちゃんと一緒なら、半分ずつして食べればいいわよね?」  恭安楽は、煜瑾が少な目のアイスクリームで我慢できるようにそう言った。 「おかあしゃまと半分じゅつ、しゅるの~」  半分しか食べられないとしても、大好きなお母さまと分け合えるというだけで煜瑾は大喜びだ。 「ボクもアイス食べようかな~」 「あいしゅ~あいしゅ~」  小敏が口を開くと、玄紀も同じようにはしゃぎだす。 「玄紀は赤ちゃんなんだから、アイスなんて食べなくていいよ」 「や~、パパ~、あいしゅ~」  急に目覚めた父性からなのか、小敏が玄紀のお腹を心配していた。 「じゃあ、煜瑾ちゃん、小敏の分も一緒に、アイスクリームを取りに行きましょうね。煜瑾ちゃんの大好きなイチゴのアイスはあるかしら」 「きっとありましゅよ。文維おにいちゃまが買って来てくだしゃるから~」 「まあ、ステキね」  それとほぼ同時に、包教授がたくさんの餃子を乗せた大皿をキッチンに運び始めた。 「今夜は煜瑾の作った餃子を食べられるよ」  煜瑾が喜ぶように、包教授がもったいぶって妻に告げる。 「嬉しいわ。煜瑾ちゃんと、文維と、お父さまのお作りになった餃子なのね。きっと美味しいわよ。楽しみね」 「煜瑾の餃子は、文維おにいちゃまにあげるのでしゅよ」  心配そうに言う煜瑾を、包夫妻は温かく見つめた。  そんなありふれた大晦日の穏やかな家族団らんの中、文維は、大人の玄紀が持っていたスマホに電話を掛けた。 (一体、誰が出るんだろうな)  気楽に考えながら、文維は周囲を見回した。  仲良くキッチンに消える両親と、可愛らしい煜瑾。  オヤツを貪りながらテレビを見ている従弟(いとこ)。  そして、真剣な顔をしてこちらを見ている幼子(おさなご)…。 (え?)  文維にはなぜか、小さな玄紀が自分を睨みつけているような気がした。 「はい。申玄紀です」 「!」  電話の向こうで聞こえた声に、文維は愕然とした。 「もしもし?文維?何か御用ですか?今日は除夕のイベントで忙しいのですが…」  それは、確かに文維が良く知る、2つ年下の「大人」の申玄紀の声だった。 「もしも~し。私をからかっているのですか、文維?」 「あ、いや、その…」  文維は、ジッと見つめる小さな子供から目を離せない。それでいて耳からは玄紀の声が聞こえるのだ。 「え~っと、ゴメン。また後でかけ直すよ」  取り敢えず何とか言葉を振り絞ってそれだけを言うと、文維は電話を切った。

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