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50 side海 恥ずかしい

 恥ずかしくて、死にそうだった。自分だけその気になっていたのかと思うと、居たたまれなくて逃げ出したくなった。 (もうヤダ!)  泣きながら逃げようとした俺を、榎井が抱きとめる。押し返して逃げようと思ったが、思いのほか強く抱きしめられ、逃げられない。 「――っ!」  もがこうとした俺の耳に、ピタリと榎井の胸が当てられる。心臓の音が、早い。バクバク鳴り響く心音が俺のものでないことに、ドキリとして身を捩るのを止めた。  榎井の手が、宥めるように髪を撫でる。頬を擦りよせ耳にキスされれば、もう逃げる気持ちはなくなっていた。恥ずかしい。けど。  落ち着きを取り戻した俺の身体を抱き寄せたまま、榎井がベッドの方に近づく。マットレスの上に座らせられ、その横に榎井が座った。ギシと軋むベッドの音に、緊張する。  榎井は無言のまま、耳に掛かった髪を指でどかして首筋にキスをする。ぞく、と皮膚がざわめいて、俺は不安な瞳を榎井に向けた。ちゅう、と首筋を吸われ、舌が這う。ぞくぞくと震える俺の肩を掴んで、榎井はゆっくりとベッドに押し倒して来た。 「……ぅ、ん」  上に、榎井が覆いかぶさる。恥ずかしくて、目を開けられない。ちゅ、ちゅっと頬や額にキスされ、くすぐったさに頬を緩める。少しだけ薄目を開けて榎井を見上げたら、俺と同じくらい真っ赤な顔をしていた。 (榎井も、緊張してる……のかな)  触れる指も唇も、優しい。  榎井は一度手を止め、ハァと息を吐いた。その声に、両手で顔を覆い隠しながら目を開けた。  どうしよう。恥ずかしい。 「……脱がす、よ」 「っ……ん」  確認され、真っ赤になって目を逸らす。なんだよ、これ。こんなに、恥ずかしいものなのか。榎井の指が、震えながら俺のシャツのボタンに伸びる。簡単に外せそうなボタンなのに、やけに時間をかけて、ようやく一つ外れた。  ドキドキと、心音がうるさい。鎖骨のあたりが見えただけのはずなのに、既に恥ずかしくて逃げ出したくなる。 「あっ、……はっ、……え、榎井っ……」 「っ……な、なに?」  ぷつっと、またボタンが外される。 「ま、待って、やっぱ……」 「……」  もう一つボタンが外され、胸が大きく晒される。榎井の視線が、胸に注ぐ。 「――っ」 「……嫌?」 「っ、嫌じゃ……」  嫌なわけじゃない。そんなわけない。  けど。 「は、恥ずかし……くて」 「う、うん……」  うん。そう言いながら、榎井は手を止めなかった。ボタンをすっかり外してしまい、露になった腹に掌を当てる。榎井の手は熱くて、汗で少し湿っていた。その手が、シャツの舌を滑って胸に伸びる。 「ふっ……、ん……」  くぐもった声が、鼻から漏れた。自分の声でないみたいだ。皮膚の上を滑っていく手の感覚に、ぞわぞわする。嫌な感覚ではない。むしろ――。 「――っ、あ」  乳首に指先が触れ、思わず榎井の腕を掴んでしまった。  榎井が、荒い息を吐きながら赤い顔で俺を見る。 (止めて、しまった) 「……」  気まずさに、思わず黙り込む。黙ってしまった俺を、榎井はしばらくじっと見つめて、それから腕を引いて今度は上体を起こさせた。 「っ?」  ぐい、と肩を掴まれ、噛みつくようなキスをされる。口の中を暴かれるような激しいキスに、ビクビクと肩を揺らしながら榎井にしがみ付く。 「ん、ぁ……っ」  歯列を舐められ、舌を絡める。唇を吸われ、何度も角度を変えてキスを繰り返す。唇を食われているみたいだ。  そうしているうちに、だんだん頭の芯がボンヤリしてきて、冷静な感情が奥へ奥へと仕舞われていく。やがて心音と体温ばかりになって、俺も夢中になって榎井の唇を吸う。  指先がいつの間にか乳首を摘まんでも、今度はその手を止めたりしなかった。

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