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人権
「すごいですね!!」
ヘリコプターの窓に映る真っ黒な海の上。大きな船が漂っていた。
輪郭だけを見れば平らな屋根に覆われており、その下にはたくさんのヘリコプターが溜まっている。
全長はシロナガスクジラくらいあるんじゃないかっていうほど大きく、船は綺麗で清潔な環境を保っているように思えた。
「今のうちだな、そんな気持ちも。たくさん船の中を知っちまったら、嫌でも帰りたくなるぞ。最近辞めた奴が二人いるんでな」
(そりゃそうか……囚人がいっぱいいるんだもんね)
彼の話によれば、この船には手のつけられない凶悪犯がたくさん収容されているらしい。
死刑になるほど悪いことをした人ばかりで、死刑制度を廃止したこの世界では船に監禁して監視しているという。
また看守は最悪殺しても構わないが、殺したことは世間に流すことができない。
そのため、お金のない奴は片っ端に潰されてやりたい放題という状態となっていた。
お金を所持している囚人に有利ってわけだ。
なんという不公平。
僕ならお金ではなく、更生できるかできないかで決めそうだ。
着地したヘリコプターから降りて、僕たちは監視室へ向かった。
歩いている最中、設計図が書かれてある船を見せられる。
記憶力の高い自分にとって覚えるのは簡単。
一番下に牢屋があって、その上には監視室や看守の部屋などがあり昼食を食べられる場所やエレベーターもあるようだ。
ちなみに万が一のために、出口も確保されている。
これはいざと言うときに使用する通路だ。
覚えておこう。
監視室はその名の通り、囚人を監視する部屋。
たくさんの画像が壁一面に映し出され、彼らの一日が一目でわかる。
「囚人に人権もクソもないからな、トイレをしていたって監視は怠らない」
「へぇ……ジョニー先輩はここにいてどれくらい経ったんですか?」
「俺はもう六年働いてる。今日は休暇なのに、休みじゃないのはヒロヤがいるからな」
ベテラン看守がこちらを見ながら、少し口角を上げた。
ジョニーというジョナサンのあだ名で呼んだが、別に気にしていない。
指摘もされないし、嫌な顔もしていないのでほっと一息つく。
僕はまだ19歳の最年少だから、仕事において分からないことは多くある。
わざわざ自分のために来るということは、おそらく信頼されている証拠だ。
ふと、上司から画面の方に視線を向けた。
するとこちらを睨んでいる囚人がいるではないか。
肌が浅黒くて、目は茶色いガタイの良い男だ。
まあ監視カメラ越しだから関係ないんだけどさ。
「あれは?」
「最近入ってきたNo.403336だ。さっきお前も話しただろ?」
隅っこの画面に、二人の大柄の看守に挟まれた白髪の青年が歩いている映像が見える。
彼の首には首輪のようなものがつけられているし、手首には頑丈な手錠がはめられていた。
彼の表情はどこか遠くを見ており、目の下にクマのようなものができている。
「首につけているのは、電撃の走る首輪だ。何か悪巧みをすれば作動する」
それを聞いて、上司の顔と画面を交互に見つめ返す。
囚人に人権がないというのは、そういうことかと思い知って驚愕した。
自分が囚人だったら、そんなことされるくらいなら死んだ方がマシだと感じる。
僕は初めて会った時から、彼のことがずっと気になっていた。
同性なんだけど、なんか可愛くて放っておけない存在。
もっと話してみたいと思うのはダメだろうか?
ジョナサンに言っても、許してくれないだろうがな。
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