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衝突と対峙①
「そうだ。俺用事ができた。だからさ、先に食堂へ行ってくれない?」
「アルマくんはどこ行くの?」
「資料室」
「資料室って」
資料室について、地図に情報が書いてあったのを思い出した。
資料室は看守しか入ることができず、身分証明となる黄色いカードがないと入れない特殊な場所に分類されていた。
尻を触っていた理由は、カードを盗むためだったのか?
殺意を向けることで、僕が前を向かないように仕向けた。
いや、これはただの憶測だ。
まだそうと決まったわけじゃない。
僕は疑心暗鬼のまま後ろのポケットに手を突っ込むと、カードらしきものがなかった。
なんの感触もしない。
やはり盗まれてしまったようだ。
もしかしてあの優しさも嘘なのか?
だとしたら、僕たちは両思いだったのか?
いやただの片思いだ。
僕の思い込み違いで、自分しか好いてなかったのか。
けど、まだ希望が残っているのなら……。
下を向いて顎に手を当てながら考え事をしていたら、彼はいつの間にかいなくなっていた。
僕のことを無視して、資料室に向かったのか。
一体なんのために?
考えているだけでは分からないので、とりあえず先ほど三人が向かった方へ走った。
T字路まで辿り着けば、階段のある場所と廊下に分かれていたはず。
もし資料室に行ったなら、階段を降りなければいけない。
彼の言った通り、食堂へ行くなら廊下の方に行けばいいが……。
(資料室を目指そう)
確かに彼の言った通り、食堂へ行くのもありだ。
しかし自分の個人情報が盗まれたのだ。
もしあいつが他の囚人に売り飛ばしたら、自分が看守だってバレるし殺されかねない。
あいつのことを信じた僕はバカだったのか。
これは今に始まったことじゃない。
僕の性格はお人好しで根暗な母親にそっくりなのだ。
いろんな男と交わって、金を取られてしまった母親を何度も見てきたじゃないか。
自分もそうなるのではないかと恐怖していた。
実際自分もそんな感じになってしまったが、別に気にする必要もない。
性格を一から直すとなれば、余計なストレスがかかってしまうのは目に見えている。
そんなの御免だ。
階段を下まで降りて、平らな場所で曲がろうとしたら誰かとぶつかってしまった。
おでこに何かがぶつかり、銀色の鉄製床に尻もちをついてしまう。
額は赤く腫れ上がり、相手の方も尻もちをついていた。
よく見れば、オレンジ色の囚人服を着た三人組だ。
あの時の三人ではない。
ぶつかってきた男は、坊主で特徴のない顔をしていた。
他の二人も髪は茶色だが、それ以外特徴がない。
いわばモブのような雰囲気がする。
唯一の特徴といえば、筋肉質ということくらいか。
「おい!」
男がいきなり立ち上がったと思えば、威圧した声音で話しかけてくる。
こちらへ一歩ずつ音を立てて歩き、迫力のある身長に圧倒された。
こんな奴とは関わり合いになりたくないし、ここから逃げたいのに、いつもなぜ運が悪いのだろうか。
拳を握りしめ、僕も立ち上がって睨み返した。
しかし相手はそんな態度に笑いを飛ばしてくる。
なぜかゲラゲラと下品に笑われ、馬鹿にされている気分になった。
胸糞わるい。
やっぱりこいつらは囚人だ。
「見ろよ、こいつの睨み。弱っちぃな。俺にぶつかってきたんだ。たくさん殴ってやろうぜ」
坊主頭の男が笑いとばしてそう言うと、茶髪の男の一人が言葉通り僕のことを殴ってきた。
頬に拳が直撃し、手すりの下の棒に頭を打ちつける。
頭の中が片割れそうなほどの激痛が走り、頭から血が吹き出て床に少し垂れた。
もしここにアルマがいてくれたら、状況はまた違っていただろう。
会話を交わして終息できたのに、自分一人だけでは厳しい。
アルマは僕を騙していたらしいが、それも本当に騙していたのか曖昧である。
もしかして囚人に売ることはないかもしれないし、あいつなら信用できると今でも思っている。
ナイフで脅しただけで、殺すことはしなかったし。
それからは三人にずっと蹴られ、殴られていた。
本当は抵抗したかったし、殴り返したかったけど力の差がありすぎて起き上がるのさえ困難。
もはや立ち上がるのさえ諦めていたその時だ。
「邪魔なんですけど」
青い髪を刈り上げている鋭い目つきの男が下の階段からやってきて、抑揚のない声で話してくる。
その声に振り向いた三人は彼を見た途端暴力をやめ、その男にお辞儀をしていた。
「申し訳ありません。ケイ様。俺たちはそんなことしていませんよ」
「隠すのやめたらどうです?私、見ていました。この場で殺しますよ」
鋭い目つきでケイがメガネ越しに睨みつけると、三人とも青ざめた顔をして体全体が震えている。
よっぽど彼のことが怖いようだ。
手も足も出ないのか、攻撃しようとしない。
ケイが拳を握りしめていたら、囚人三人は慌てて階段を上っていく。
意味不明な叫び声をあげて、うめき声をあげて逃げてしまう。
「本当に弱い奴ら……」
ニコリと笑みを浮かべて、ポツリと呟く。
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