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第55話 東グループの力

 「じゃあ、理玖を正式な婚約者として公表するのかい?」  僕の父さんはあっくんを見据えて、何を考えているのか分からない表情で言った。 「はい。それが最善だと思います。今回のことは父とも相談して賛成してもらっています。噂を吹き飛ばす様に大々的に公表するつもりなので、理玖の周辺が騒がしくなるかもしれませんが。同時に今やっている噂の払拭もITセキュリティ専門家に強化してやってもらいます。」  父さんは少し考え込んでいたけれど、頷いた。 「確かにネットの誹謗中傷を完全に消すのは難しい。だが、そこに理玖自身の公的な立場が加われば名誉毀損という形で払拭はしやすい。特に中学三年で守られるべき存在だと認識されれば尚更だ。  今回の事は私も彗や涼介も色々対策しているが、決定打が無かった。理玖が婚約するのは思ったより早いけれど、篤哉くんがそうしてくれるなら私からもお願いしたいと思う。よろしく頼みます。」  僕は父さんとあっくんの顔を交互に見た。何だか知らないうちに話が大きくなっている。でも確かに東グループの後継者であるあっくんの婚約は大きな話題になるだろう。  でも父さんや兄さんたちが色々手を尽くしてくれているのは知らなかった。何だか色々迷惑掛けちゃってるみたいだ。 「僕、みんなに迷惑掛けちゃってる…ね?」  あっくんと父さんは僕をハッとした様に見つめて言った。 「「理玖は悪くない!」ぞ!」  二人がハモってるので、僕は緊張していた気持ちが少し緩んで微笑んだ。 「ありがとう。僕ってみんなに大事にされて本当に幸せだね。でもあっくん、本当に僕と婚約しても良いの?僕まだヒートも来てないんだよ?」  あっくんは僕をうっとりと見つめて言った。 「これはキッカケに過ぎないけど、私としては理玖と婚約出来るなんて嬉しくてたまらないよ。」  僕はあっくんの甘い声にドキドキしてきて、恥ずかしくなって俯いた。  父さんの咳払いでハッとした僕たちは気まずい思いで、眉を顰める父さんの顔を見た。父さんはため息をつくと渋々といった感じで言った。 「…こうなると、篤哉くんに渡してある10か条も少し緩める必要があるだろうね。それについては彗に任せるから、変更点を彗から連絡させるよ。婚約の時期は早い方が良いだろうから、君のご両親とも相談して決めたいと思う。  …篤哉くん、どうか理玖をよろしく頼みます。」  そう言って父さんはもう一度あっくんに頭を下げたんだ。

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