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第56話 尊side理玖の婚約
多分理玖が篤哉さんと婚約するんだろうなとは漠然と思ってたけれど、まさかこんな中3の、しかもまだヒートも来ていない時期にするとは予想外だった。
確かに理玖の名前を騙った悪質な誹謗中傷には、俺も悠太郎も腹が立った。けれど、ネットで広がった言われのない噂話は、どうやっても完全に火消しするのは難しいと感じていた。
そこに篤哉さんは東グループの力技を繰り出したんだ。確かに東グループの跡取りの婚約者が、中3のΩで三好建設の末っ子ってことになれば、その末っ子に迂闊な中傷したらどうなるか誰でも予想は出来るだろう。
噂になったのが、大学生限定のシークレットラバーだったせいもあって、利用者がちゃんとどう行動すればいいか理解してたのが大きい。面白がっていた有象無象も、流石に東グループの力の前には大人しくなったみたいだ。
一方で実際にQと名乗っていた人物像と理玖との、見た目とバースの違いが一気に広まったせいもあって、今じゃすっかりアレはガゼネタだったという流れだ。
この噂の払拭ネタも東グループと三好家の力技があったとか、なかったとか。まぁ、涼介さんならやりかねない。
俺と悠太郎はカフェで理玖を待ちながら、この理玖の婚約という中学部でのビックニュースでまたもや理玖の周囲が浮き足立ちそうだなと話していた。
「今回の件は理玖的には、気がつけば婚約話が進んでた感じなんだろ?まぁ、理玖は理由はともかく、篤哉さんと正式に婚約できて嬉しいだけだろうな。」
俺がそう言うと、悠太郎は頷きながらボソッと話した。
「…そうだな。やっぱり、俺的には結構ショックを感じるって言うか。分かってたんだけど、本当にもう理玖は篤哉さんのものなんだなぁって思って。あーあ、いっそのこと理玖と篤哉さんが運命の番だったらな。そしたら俺もすっぱり諦められるのにな。」
珍しく愚痴を言う悠太郎に慰めの視線を送りながら、俺は悠太郎に尋ねた。
「なぁ、運命の番ってどーゆう感じになるんだっけ?」
悠太郎は俺の顔をじっと見返して言った。
「え?都市伝説じゃなかったっけ?出会ったら瞬間に匂いでヒートとラット起きるとか?でもそれって、かなり昔の話だろ?今じゃかなり抑制剤が効くから、そこまであからさまじゃない気がするけどね。何、お前、運命の番に憧れてるのか?」
そう言って悠太郎がニヤつきながら俺を見るから、俺は肩をすくめた。運命の番なんて、このご時世ほとんど幻の都市伝説だよなぁ。
でも、俺は理玖と篤哉さんを小さい頃から見てるんだ。あの二人を見てると、あれが運命の番じゃなかったらどれだよって気がするんだ。本当に。
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