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第64話 尊side耐えられない

 婚約してからの理玖はいつも幸せオーラに溢れていて、俺たちは何とも言えない気持ちで理玖を見つめていた。幼馴染として全面的に祝福したい気持ちと、一方で成熟への階段を登っているオメガである理玖への、アルファとしての本能的な引き寄せに戸惑うという、親友としては感じてはいけないその複雑な気持ち。  まぁ、ぶっちゃけ俺でさえ理玖を旨そうに感じていたのだから、元々理玖を大好きな悠太郎にとってはたまったものじゃないだろう。俺たちはもうちょっと効き目の強いラット抑制剤を念のために持ち歩く羽目になったんだ。  だからといって、理玖と付き合わないという選択肢は無かった。俺たちと一緒に行動しなければ、もっと危険なα共に取り巻かれるのは目に見えていたからだ。  しかし、あの日の朝に理玖に会った時、俺は皮膚がザワザワと波立つような気がした。俺は思わず理玖に何も考えずに尋ねていた。 「…理玖、お前篤哉さんとやったのか?」  今考えると身も蓋もない聞き方だったとは思うが、その時は急を要していたんだ。理玖は瞬時に真っ赤になると、俺を涙目で睨んで言った。 「みことっ!言い方!」  俺は慌てて言った。 「いや、待て、揶揄ってるんじゃないんだ。お前今日ちょっとやばいぞ!Ωのフェロモンがヤバい感じなんだ。抑制剤持ってるだろ?今すぐ飲んで。持ってなかったらあっくんに迎えに来てもらって帰るしかない。俺も抑制剤飲まないとお前のそばにいたらヤバい!」  そう言いながらバックから例の抑制剤を出して飲んだ。呆然として俺のやる事を見てた理玖は、慌ててポケットの抑制剤を飲むと、俺を済まなそうな顔で見つめて言った。 「…ごめん、心配かけて。僕、そんなにあからさまだった?」  俺は頭を掻いて、なんて言うか考えながら答えた。 「…あー、まぁ初めてなんだろ?元々理玖はΩの中でも上位αと番うほどの強いフェロモン持ちだから、こうなりやすいんだよ。知らなかった?そっか。…あ、おめでとう?」  俺の揶揄いに、もう一度むくれた理玖は直ぐに薬が効いたようで、いつもの付き合いやすい理玖に戻っていた。俺たちはあまりΩっぽい振る舞いのない理玖を、ついついαのような気持ちで付き合いがちなんだけど、本能ではαの求めるΩであるのは間違いないので、こんな事も起こるんだろう。  俺は篤哉さんに今起きたことを報告しなきゃなと思いながら、にこやかに授業の事を話し始めた理玖の横顔を見つめた。  

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