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第65話 新入生Ωside三好先輩

 僕の通っている英明学園大学附属中等部は、名門校だけあってαもΩも他の学校に比べたら多い。そんな僕も小さな頃から身体が華奢で、母さんがαで、父さんがΩという珍しい組み合わせの夫婦だった事もあり、早々に病院で検査していた。小学校5年生ではハッキリしないものの、全体の成長率からΩの可能性が80%と言われていた。  だから僕は、自身が男でありながらΩだった父さんの学生時代の苦労を参考に、Ωであっても困らない様にある意味Ωらしく振る舞う事を意識していた。そして念願の英明附属に入学したオリエンテーションで、そんな僕は一人の先輩に出会った。  三好理玖という生徒会の先輩は、どこに居ても人の目を奪った。新入生の間でも、あの先輩は一体何者なのかという話題で持ちきりだったんだ。  生徒会広報の役員である三好先輩は、壇上で卒なく僕たちに分かりやすく学園生活を提示してくれた。その語り口調や物腰は明らかに力のあるαそのものだった。けれども典型的なαの中に三好先輩が紛れ込むと、体格も、その美しさでも、その柔らかな微笑みでもαとは一線を画していた。  僕たちは三好先輩がΩなのではないかと噂していたんだ。中学へ入る頃にはいかにもΩな僕は、人一倍三好先輩が気になっていた。僕は三好先輩がΩなら、僕の考える男としてのΩ像に新しい道筋を提示してくれていると思った。  そしてあの運命のバース判定の翌日、僕はやっぱり自分がΩだと証明されて、まだ何とも言えない気持ちで迎えの車を待っていた。僕が正門へ向かうその時に、前方が妙にザワザワしていたので見るともなしに視線を送ると、そこには明らかに上位αが立っていて誰かを待っている様だった。  街中でも滅多にお目にかかれないようなそのαは、僕を恐怖と興奮に陥れた。αの新入生はことごとく畏敬の眼差しで遠巻きにしていて、僕は無意識にこうしてバースの差が出ているのだと実感したんだ。そしてβの同級生たちは、只々憧れの眼差しで見つめていた。  その時、その大学生くらいの上位αは顔を上げて、満面の笑顔で僕たちの後ろへ視線を送った。僕はそのαの魅力に倒れそうな気分になったけれど、一体誰にその眼差しを送っているのかと誰もが気になったんだと思う。  そしてそのαが広げた腕の中へ嬉しそうに飛び込んだのが三好先輩だった事に、僕たちは驚きを感じるのと同時に、ある意味完璧に納得していたんだ。その上位αの腕の中の三好先輩は、間違う事なく極上のΩだったのだから。  僕がその日から、三好先輩を僕の理想のΩの男として憧れたのは当然のことだった。

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