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第96話 篤哉side俺の番

 俺は父親から受け止め切れない事実を聞いて、意識を失ったみたいだ。目が覚めるとすっかり朝になっていて、担当の看護師が俺の様子を見てホッとしたのが分かった。  一人部屋で窓から見える都会のビル群を見つめながら、俺は昨日父親に言われた話を思い起こしていた。 「…篤哉が思い出せない大事な記憶があるんだ。交通事故にあった時に、篤哉は三好理玖君という高校一年生を助手席に乗せていた。お前たちは海から帰宅するところだった。  お前は信号無視したトラックがぶつかってくる時に、咄嗟に助手席の理玖君を庇った様だ。それで頭を打った。」  俺はなぜかドキドキと心臓の鼓動が速くなっていた。 「三好りく…?三好って涼介と同じ苗字だ…。」  父さんは額に手を当てて辛そうに話を続けた。 「お前がそこまで憶えていないとは…。理玖君は涼介君の弟だ。お前がそれこそ、赤ん坊の頃から可愛がっていたんだ。そして理玖君と篤哉、お前たちは番だ。  私たちはまだ早いと思ったが、お前と理玖君は二人で番うことを決めて、一年前に実行した。…お前が理玖君を愛してるのは、見ていて怖いほどだったよ。」  俺は自分が番っていた事にも驚いたけれど、涼介の弟である、理玖という名前の高校生がすっぽり自分の記憶から無くなっている事にショックを受けた。  そしてどこか心がザワザワと恐怖を感じ始めている事にも戸惑っていた。俺はハッとして父さんの顔を見た。 「もし、その理玖君という名前の、俺の番?が一緒に車に乗って居たのなら、その子はどうなったんですか?怪我をしているんじゃないんですか?」  俺は父さんの顔が曇ったのに気づいた。まさか…俺はなぜか息が上手く出来ない気がした。これは何だろう。…恐怖? 「今、理玖君はお前より状況が悪いんだ。足の酷い怪我でここに運ばれた時には、出血性ショックで一瞬だが息が止まった。事故現場と、この病院が近かったお陰で命を取り留めたと医者が言ったらしい。  怪我が酷かったせいもあって、自発呼吸も安定せず危篤状態だったんだ。お前も朦朧としていたし、私たちにはどうする事も出来なかった。  幸い峠は越えて、命は助かった。でも大量出血の影響で危うい状態なのは同じだ。…篤哉?おい、大丈夫か⁉︎くそっ、ショックが大きかったか。…」  俺が憶えているのはここまでだ。俺はショックで気分が悪くなって意識を失ったらしい。ああ、俺に番?憶えてないなんて!その時俺は、なぜか夢の中の、名前も知らないあの少年を思い出していた。  …もしかして、あの少年が俺の番なのだろうか?

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