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第103話 何か違うよ、あっくん

 「理玖?調子はどう?明日はいよいよ退院だな?」  病室に顔を出したあっくんは、少し髪をきったみたいで肩まであった長い髪は今は顎の辺りだ。僕はそんなあっくんにちょっぴり寂しくなって、そっぽを向いてしまった。  あっくんは僕の機嫌が悪いことを察知して、慌てて僕の側に近寄るとぎゅっと抱きしめた。あっくんが僕のことを丸忘れしてから、僕の希望でこの抱きしめ儀式は頻繁に行われる様になった。 「…今度はなに?」  あっくんは優しい眼差しで僕を見つめると、何が気に入らなかったのか聞いてきた。 「…あっくん、僕、あっくんの長い髪が好きなの。ちょっと切りすぎだと思う…。」  あっくんは僕の顔にちゅっ、ちゅっとキスすると、眉を下げて言った。 「そっか。ごめん。また髪は長くなるから。ふふ。…理玖は俺のこと大好きなんだな。」  あっくん全然反省してない。僕はあっくんの頬を両手で摘んで引っ張ると、痛がるあっくんの唇にちゅっとして言った。 「あっくんは覚えてないでしょうけど、あっくんの方がずっと僕を好きなんですー。」  あっくんはニヤニヤしながら僕を抱きしめると、蕩けそうな顔で僕に囁いた。 「…理玖の昔の事、全部はまだ思い出せないけど、俺、理玖に二度目の恋しちゃったんだ。だから、理玖の言う通り俺の方が理玖を大好きなんだよ?知らなかった?」  僕は急に全力を出してくるあっくんにやられて、ドキドキと心臓を震わせると、あっくんの瞳を覗き込んで囁いた。 「僕も。僕もあっくんが大好き。」  それから僕はあっくんの優しい唇を感じた。柔らかくついばむようなキスは、僕をほっこりさせたし、同時に欲求不満にさせた。あっくんはハッとした様に僕から離れると、もう一度おでこにキスして僕をぎゅっと抱きしめた。  僕は何故あっくんがもっとうっとりする様なキスをしてくれないのかと思ったけれど、聞けなかった。だって、目の前のあっくんは僕を知らないあっくんだから。  あっくんにとって僕は、最近知り合ったばかりの番なんだから。僕がどんなキスが好きだとか、そんな色んな事を知らない。  先に退院したあっくんは毎日僕に会いにきてくれるけれど、こんなキス止まりじゃ僕は物足りなくて爆発しそうだよ。  それに結局丸々2ヶ月も入院していた僕は、身体が本調子じゃなかったから発情期は来なかった。だから次の発情期がいつ来るかわからないんだ。  あっくんのあの感じじゃ、発情期来ないと僕に手を出してくれなさそう…。こんなに発情期が待ち遠しいのは僕初めて。はぁ。

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