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第104話 篤哉side俺の恋した番

 病院へ到着すると、俺はいつも早る気持ちを抑えてトイレで深呼吸する。早く理玖に会いたいけど、身だしなみをチェックするんだ。理玖にカッコいいって言われたいし。  ああ、今日も理玖の匂いを嗅いで、理性を抑えられるだろうか。理玖の体調が回復するのにつれて、俺を惑わす番の匂いが強くなっている。俺はノックダウン寸前で、いつも理性を飛ばしそうになるんだ。  でもうちの父親にも、涼介にも、退院するまでは理玖の健康第一でと釘を刺されている。もちろん俺だって無謀な事はしないつもりだけど、キスした後の理玖のあの眼差し…。俺に投げかけるおねだりの眼差し…。  あれに我慢する自分を、ほんとに褒めてやりたいよ。あぁ、明日の退院の日が待ち遠しい…。さて、行くか。  病室のドアを開けると、待ちかねていたようにパッと顔を輝かせて俺を見つめる理玖に、俺は全然慣れない。ドキドキして心臓がダメになりそうな気がする。  でも急に眉をしかめて、口を尖らす理玖。ああ、あんな拗ねた態度も可愛い。俺は時々、本当にこの可愛らしい生き物が、俺の番なのかって信じられない気持ちでいっぱいになるんだ。  俺は理玖を赤ん坊の頃から可愛がってたらしいけど、ちっちゃな頃はどんなに可愛かったか想像できない。俺の記憶、マジでどこ行ったんだ…。  俺はそそくさと理玖に近寄ると、俺だけの甘くてうっとりする様な良い匂いの理玖をぎゅっと抱きしめた。この抱きしめの儀式は理玖から提案されたんだけど、会うたびに使ってる気がする。 『あっくんが僕のことすっかり忘れちゃったのは、もうしょうがないって諦める事にしたの。でも、やっぱり忘れちゃったの⁉︎ってムカつくことがあるでしょ?そんな時はぎゅってして?それで何を忘れたのか聞いて欲しい。  僕もいちいちあっくんを責めたりしたくないし、だからって我慢してたらあっくんのこと嫌いになっちゃうでしょ?』  事故とはいえ理玖の事だけすっかり忘れてしまった俺は、理玖を悲しませたのは間違いないんだ。俺自身は理玖にもう一度恋してるから、恋する人の悲しい顔を見たくない…。  長い髪が好きなのにって拗ねる理玖が可愛すぎて、俺は甘い理玖の唇を味わった。ああ、もっと理玖を味わいたい…。俺は苦しいほどの思いで理玖の顔から身体を引き剥がした。  そして、今日までの我慢だって俺は自分に言い聞かせるんだけど…、目の前の理玖の物足りない顔に、理性は引き千切られそうだよ。

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