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第105話 退院祝い

 あっくんに連れられて到着したのは僕の家だった。少しだけあっくんのマンションへ連れて行かれるかもと、淡い期待を抱いていたけれど、冷静になれば、僕の家に帰るのは当たり前だ。  大歓迎の野村さんに迎えられてダイニングへ向かうと、クラッカーが鳴り響いた。そこには、僕の家族や、尊や悠太郎が揃って僕を待ち構えていた。 『理玖、退院おめでとう!』  皆の声に迎えられて、僕は嬉しさを爆発させた。母さんが僕をぎゅっと抱きしめて声を震わせるから、僕はどんなに心配を掛けたのかと申し訳ない気持ちになった。  僕も治療で痛かったけれど、何も出来ずに待つしかなかった家族の方が辛かったかもしれない。特に僕が意識を取り戻さなかった時間は…。僕は母さんにささやいた。 「…心配かけてごめんなさい。きっと、みんなの方がずっと苦しかったよね?」  父さんや、彗兄、涼兄が集まってきて、僕の髪をかき混ぜたりと揉みくちゃにした。 「全く心配ばかりかけて!本当、寿命が縮んだぞ?」  みんなの顔が何だか泣いてるみたいで、僕は嬉しさと申し訳なさに涙がポロポロ溢れた。そんな僕をあっくんがそっと抱き寄せてくれた。 「理玖が泣いてる間に、ご馳走様食べようぜ。」  そう言って揶揄う尊は相変わらずで、僕は思わず顔を上げて言った。 「ダメ!僕、病院食ばかりで飽き飽きしてるんだから!」  その場があっという間に楽しい雰囲気になって、僕は密かに尊に感謝した。皆で食事を始めると、尊と悠太郎は僕を優しく見つめるとニヤッとして言った。 「理玖が留年しなくて良かったよ。ギリギリ間に合ったかな?」  そう言う尊に、悠太郎まで付け加えるように言った。 「そうそう、名誉ある中学部の生徒会メンバーから、留年生を出すわけにいかないからな。」  僕は二人の言うことも最もだと思いながら、少し不安な気持ちであっくんを見つめた。あっくんは僕に微笑むと言った。 「心配しなくても、俺が理玖の遅れた勉強はしっかり見てやるから。」  そう言って僕を抱き寄せると髪に口づけた。以前のあっくんは人前でこんなに分かりやすくスキンシップしてたかなと、僕が疑問に思った様に、涼兄も眉をひそめて言った。 「篤哉、お前随分遠慮が無いな…。」  そう言う涼兄にあっくんはにこやかに言った。 「俺、事故から目が覚めるまで、夢の中で理玖に会ってたんだ。だから病院のベッドで理玖が眠ってる姿を見た時、俺の運命だって思った。そしたら番だって言われて。  俺は理玖のこと大事すぎて記憶からすっぽり抜けちゃったけど、その時には理玖にもう一度恋してたんだ。だからどんな瞬間も、理玖を惜しみなく愛しむつもりだ。」

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