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第110話 僕の仄めかし
僕があっくんに、毎日可愛がれと言ったのには訳があった。実は僕は父さんに頼んで、生活の拠点をあっくんのマンションに移す事を許してもらったんだ。これからはたまに実家に帰る生活になるんだ。
でもその事をあっくんにはまだ伝えてなかった。僕と一緒に暮らしたがっていたのは記憶を失う前のあっくんであって、今のあっくんじゃないから…。
だから僕は匂わせ発言をして、様子を伺ったんだ。僕を腕の中に抱きしめていたあっくんは、ムクリと起き上がって僕を見下ろした。
「理玖、今、毎日可愛がってって聞こえたけど…。俺たちって一緒に住んでない…よな?」
僕はにっこり微笑むと、ちょいちょいと指先であっくんを呼んだ。あっくんは少し緊張した顔でもう一度僕にかがみ込んだ。あっくんの顎までの長い髪を僕はそっと掴んで引き寄せて言った。
「…あっくんは僕と一緒に暮らしたい?」
あっくんは、僕をじっと見つめるとやっぱり緊張した顔で、もう一度尋ねた。
「理玖が毎日一緒に居るってこと?涼介から、一緒に住む許しが出てないって聞いたけど…。」
僕はにっこり微笑んで言った。
「僕、父さんに言ったんだ。僕とあっくんは運命の番だから、一緒に暮らすのが自然だって。父さんは最初渋ってたけど、父さんがもしあっくんの立場だったらどうすると思う?って聞いたんだ。
最後には渋々だけど一緒に暮らしても良いってお許しが出たの…。あっくんはどうしたい?」
途端にあっくんは雄叫びをあげて僕をぎゅっと抱きしめた。
「一緒に暮らす!何が何でも理玖を毎晩可愛がるから!」
僕はあっくんの浮かれ具合にクスクス笑って、あっくんの涼やかな眼差しを覗き込んだ。僕の甘ったるい目と違う、一見冷たく感じるあっくんの切れ長の目が、僕は本当に大好きだった。
その涼しげな眼差しが、僕にだけとろりと甘やかに変わるのも僕は昔から好きなんだ。あっくんはやっぱり僕を小さな頃から好きでいてくれたんだって、今なら分かる。
「あっくん、僕はあっくんに小さな頃の僕らを思い出して欲しい気もするんだ。でも、それは僕が覚えていれば良いって最近は思ってる。
だって、僕があっくんを好きなのは変わりないんだし、あっくんも昔の事を覚えてなくても僕を好きになってくれたでしょ?それって凄い事だもの。あっくん、僕あっくんが大好きだよ?」
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