118 / 122

第118話 確かでないもの

 「そっか、篤哉さんてやっぱり凄いな。」  悠太郎は僕の会社見学の話を聞いて、腕を組んで感心しきりだ。悠太郎の実家は木崎商会という、老舗の物流会社だ。悠太郎にはアルファの兄がいるので、次男の悠太郎は後継者的な縛りはない。 「ねぇ、悠太郎は将来お家の仕事を手伝うの?うちで言えば、次男の涼兄や僕は実家の三好建設を手伝っても良いし、関わらなくても良いって親に言われてるけど。  悠太郎はどうするか考えてるの?」  悠太郎は、目の前のアイスクリームをスプーンで突いて少し考え込んでいたけれど、僕を見つめると言った。 「まだ全然、何も決めてないよ。特にこれだってやりたい事が浮かばなければ、兄さんに協力してうちの会社の仕事しても良いって思ってる。  それを言ったら、尊なんて男はあいつ一人だし、実家は大きな寺だし、問答無用で坊主の道まっしぐらだろ?クク。あいつが坊さんだなんてちょっと想像つかないけどな。」  確かにそうだ。でもあのくらいさばけてた方が、案外説法に真実味がつきそうだ。僕はしたり顔で説法をする、袈裟を着たお坊さん姿の尊を想像してクスッと笑った。 「何だ?今俺のこと言ってなかった?悪口ってのは、遠くでも聞こえるもんだな。」  そう言いながら、僕の頬を引っ張る尊に僕はぎょっとするやら、手で払い除けるやらでドギマギしてしまった。すると悠太郎が笑いながら言った。 「別に悪口じゃないぜ。お前は将来坊主になるのかなって二人で想像してちょっと面白かっただけだ。」  尊は眉を上げて僕達を見ると、特に反論もせずに空いた席に座った。 「今ね、将来どうするかって話をしてたんだよ。僕、あっくんに将来東グループに入ってくれみたいなこと言われたんだ。僕全然考えてなかったから、ちょっと色々考えちゃって。  実際尊はどうするつもりなのか、考えてる?」  尊はニヤリと笑うと、悪そうな顔をして声を潜めて言った。 「俺はな、立派な生臭坊主になって、じゃんじゃん金稼ぐつもりだぜ。何たって宗教法人は税金免除だからな。親父も結構な生臭ぶりだけど、俺はもうちょっと綺麗な感じでいくつもりだ。  そうだな、美坊主で有名になってテレビで有難いことを言っても良いし、いっそMYTUBEで再生回数ガンガンに稼ぐのも良いかもな。」  僕と悠太郎は将来のトンデモ美坊主ぶりが見えるようで、ニヤつく尊を呆れた顔で見つめたんだ。

ともだちにシェアしよう!