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第1話 好きなヤツいるから(2)

「おい明……ちょっとツラ貸せや」 「は?」 「いーから、来やがれっ!」  教室だと目立つだろうと、腕を引き寄せて廊下へと連れ出す。こちらの手を振り払うなり、怪訝そうに明は切れ長の目を細めた。 「なんだよ」 「中原さんと別れた」  静かに言えば、明は少しの間のあと、 「そうか」  たった一言だけ返してきた。なんだそんなことか、といった反応にムッときてしまう。 「反応薄ッ! もっとあんだろうが!」 「……一週間しか続かなかったか。完全に《お試し期間》だったな」 「具体的に言うんじゃねえ! くそぉ、どうせ一回もデートしてねーよ! 二回目のデートで手ェ繋いで、三回目でキスして――って計画してたのに!」 「どんな乙女思考だよ、それ」 「うっ」  千佳が中原に告白したとき、二つ返事でオーケーが貰えたのだ。明が言ったとおり、《お試し期間》だったのかもしれないが、千佳としてはあれやこれやと期待してしまったのだった。 「お前が俺の隣にいるから目移りしたんだ……」  言って、中原から渡された手紙を突き出す。それだけですぐに明は察したらしく、プッと笑った。 「バッ、笑うんじゃねえ! 最悪!」 「いや、まさかそうくるとは思ってなかったし。残念だったな?」 「嬉しそうなのがムカつくっ……はやく確認しやがれって!」 「わかってるよ」  面倒くさそうに返事をして、明が手紙の封を切る。千佳は辛抱堪らず、明の肩に顎を乗せて覗き込んだ。 「中原さん、なんて?」 「重い」  すかさず、明に手で押し退けられてしまう。  ただ、一瞬でも手紙の内容が理解できた。『放課後、教室に残っていてください。瀬川くんに伝えたいことがあります』とあり、その意図は明白だ。 「マジかよ。中原さんから直接告られるんか……どーすんの、明?」 「フツーに断るに決まってんだろ」 「うっわ、中原さんフるとか勿体ねえ! “さっちん”みたいな顔してて可愛いのに! なんつーか、守ってあげたくなる系っていうかさ」  国民的アイドルグループ《萌木坂46》のメンバーで、千佳のいわゆる《推しメン》である。例えでその名を口にしたら、明は眉間に皺を寄せた。 「まさかお前、そんな理由で告白したのか? 今までの女も?」 「えっ、まあ……いやいや第一印象は大事だろ!? それに中原さん、優しい雰囲気してるし……クラス別だから多分だけど」 「優しかったら、手紙渡してだのフッた相手に言わねえだろ。いい根性してんな、その女」 「おいコラ、そんなふうに人のこと悪く言うなよ! 偶然が重なっただけかもじゃんっ」 「……ほんっと、どっちもどっちで見る目ないな」

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