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第1話 好きなヤツいるから(4)

    ◇  翌朝。バスの停留所で明と挨拶を交わす――あまりにも日常的な登校風景だというのに、落ち着かぬ千佳がいた。 「なにガン飛ばしてんだよ」 「ちっ、違ぇーし!」  決して睨みつけていたわけではないけれど、意図せず視線を向けてしまっていたらしい。  昨日のことが脳裏をちらついて気まずい。今日に限って停留所には二人しかいないし、バスも遅れているようで、時間の経過がやけに長く感じられた。 「あの、よ。お前って好きな人いんの?」  居ても立っても居られなくて、ストレートに訊いてみる。  唐突な問いかけに、さすがの明も目を丸くした。 「……は?」 「じ、実は俺さ、聞いちゃったんだよね。中原さんに告られたとき、そう返してたの」 「お前な」  はあ、とため息をつかれる。正直に言いすぎた感は否めないが、千佳の性格上、黙っていることなんてできなかった。 「いるよ、好きなヤツ」  ややあって、明は何のことはないように口にする。 「……誰だよ? 俺の知ってる人?」 「ンなの言う必要ねえだろ」 「なっ、必要あるわ! 友達なら話すのがフツーだろ!?」 「………………」  不意に明の顔がこちらに向いて、ギクリとした。二人の視線がぶつかる。  真剣な眼差しをしながら、明は口を開いた。 「もし、お前が好きだって言ったら――どうする?」 「えっ」  思わぬ告白に、小さく声を漏らす。  そして理解が追い付いた瞬間、得も言われぬ感情が込み上げてきて、咄嗟に顔を背けた。とてもじゃないが、まっすぐに見つめてくる明のことを直視できなかった。 (明が、俺のことを? う、嘘だろ……)  やけに頬が火照って、胸がうるさいくらいに早鐘を打ち鳴らす。まるで、好きな相手に恋焦がれているかのように。 (男同士、しかもガキの頃からずっと一緒にいるようなヤツだぞ!? ないないない!)  とは思うものの、胸の高鳴りはちっとも治まる気配がなく、ますます混乱してしまう。このままでは、頭がどうにかなってしまいそうなくらいだ。 「あ、あのさ」  妙に空いてしまった間が気になって、声をかける。  しかし、どう返せばいいというのだろうか。思考がままならぬまま悩んでいると、フッという笑い声が聞こえた。 「バーカ、冗談だよ。なに真に受けてんだよ」 「………………」  何も言葉が出てこなかった。信じられないことに、「冗談」と聞いてショックに感じている自分がいたからだ。

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