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第4話 幼馴染みには戻れない(4)
「!」
《推しメン》の愛称にうっかり反応してしまった。それを見て、《オネエ系》は「やっぱり」と微笑を浮かべる。
「アナタみたいな子がそういった本買うの、ちょっと珍しいと思って。それに大事そうに抱えてるし、ひょっとしたら~って思ったのよね」
「そ、そーっすか……はは」
千佳は無難に返すしかなかった。
勘違いとはいえ、あの日は危うくホテルに連れ込まれそうになったのだ。できれば、あまり関わり合いになりたくない。
が、次の瞬間、その警戒心は一気に失せることになる。
「アタシも好きなのよね~。素朴でふんわりした可愛さがあって。しかも、彼女ってばスタイルが――」
「抜群にいいですよね!? 小顔で手足が長くて、モデル体型っつーか!」
《オネエ系》の言葉を遮るようにして、千佳は食い気味に言った。この手の話題になると、途端にスイッチが入ってしまい、我ながら恥ずかしい。
ところが相手は特に気にすることなく、むしろ嬉しそうな顔をして続けるのだった。
「でもって、あの見た目で“カッコいい”もできるんだものね。センターに立ったときのダンスのキレとか、アタシすごく好きだわ」
そう、彼女は可愛いだけでなく、パフォーマンスでは時に凛々しくキメたり、格好よく踊ったりとギャップがある。それがまた魅力的で、ファンの間では「可愛いのにカッコいい!」と評判なのだ。
(すっげ……ちゃんと見てる人だ!)
パッと見ただけでは伝わらない魅力といったらいいだろうか。それをわかっているだなんて――二人はすっかり意気投合し、千佳は連絡先の交換を提案したのだった。
「『コタロー』さん、でいいっすか?」
LINEのアカウント名を読み上げると、彼は矢島琥太郎 と名乗った。年齢は二十歳、美大生だという。
相手に合わせてこちらも素性を明かしたら、彼はイタズラっぽく笑った。
「にしても、高校生をホテルに連れ込もうとしてたなんて。あのときはごめんなさいね?」
「あ……いえ、こちらこそすんません。あのあと、大丈夫でした?」
例の一件を持ち出されてギクリとするも、気になって問いかけてみる。明が相手を置き去りにしていたようだったので、トラブルに発展していないか少し不安だったのだが、
「うん? 取り残された子も交えて“三人で”楽しんだから大丈夫よ?」
あっけらかんと返されてたじろいでしまう。“三人で”と言うからには、そういうことなのだろう。
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