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第4話 幼馴染みには戻れない(5)
「ふふ、チカくんってば可愛い。高校生には刺激が強かったかしら?」
「なっ! ……つ、つーか、前も思ったけど、『可愛い』ってやめてくださいよ。俺、全然そんなっ」
知る由もないだろうけれど、千佳からしたら童貞なことをからかわれている気分だ。
が、琥太郎は意に介さない様子で急に真面目な顔つきになった。
「ふうん、そう?」
千佳の顎に手を当てて上を向かせると、じっくり観察するように見つめてくる。突然のことに千佳は固まった。まるで品定めでもされているようだった。
「アタシ、可愛い子は好きよ? 女の子だって男の子だって……ね?」
言って、琥太郎は意味深に微笑みかけてきた。その妖しい眼差しと艶っぽい声音といったら、言葉の意味するところは一つしかない。
あろうことか本気で言っているのだろうか。可愛げもないし、そういった対象になるとは到底思えないが――千佳が目を白黒させていたら、クスッという笑い声が聞こえた。
「……な~んて、こんなところでする話じゃないわね。ギャラリーが多すぎるもの」
「う、わっ!」
ハッとして周囲を見回す。
琥太郎から身を離すも、時すでに遅し。ちらちらと人々の、「迷惑だ」と言いたげな視線がこちらに向けられていた。しかも、その中には明もいて、いかにも訝しげな表情をしているではないか。
「よ……よお、明! そっちの買い物は済んだのか?」
「ああ。もう会計してきた」
「おうマジか。俺まだでさ、うっかり《推しトーク》が盛り上がっちまって」
「いや、なに本屋でペチャクチャ話してんだよ。そんでコイツ誰?」
琥太郎を見て明が言う。当の本人はまったく悪びれる様子もなく、二人のやり取りを眺めているだけだった。
「っと、この人はコタローさん。知り合ったばっかなんだけど、話がすげー合ってさ」
そうですよね、と琥太郎に目をやる。本当はラブホテル街で一度会っているのだが、明が覚えていないのなら言う必要はないだろう。
琥太郎は話を合わせるように、首を縦に振った。
「ええ、だからそんな怖い顔しなくても大丈夫よ? まだお友達から始めるところだし」
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