55 / 76

第9話 やっと隣に並べた(2)

「にしても、二人してピュアすぎて妬けちゃう。幼馴染みの子、忍耐強いっていうか……随分とアナタのこと大切にしてるのね」  口の端に付いたソースを親指で拭いながら、琥太郎が言う。照れくさくてどう返事をしたものか悩んでいたら、クスッと笑われた。 「な、なんすか」 「ふふ、可愛いなあと思って」 「うーん、そう言われるとなんか複雑っつーか」 「やだ、純粋に恋してるのが伝わってきて羨ましいのよ。男同士って続かないものだし、なかなか珍しいわよ?」 「えっ、うそ!?」 「そりゃそうでしょ。結婚もできなけりゃ、子供だって作れないし、『やっぱり女がいい』って言われたら終わりだもの……って、もしかしてビビらせちゃったかしら?」  琥太郎の言うことはもっともだ。そういった障害があることもわかっている。  が、千佳は首を横に振って否定した。 「そんなわかんねーこと気にしてるの、楽しい“今”が勿体ないと思うし」  楽観的といえばそれまでだ。けれども、難しいことなんてまだ考えられないし、悔いのないよう、今は“今”だけの時間を楽しみたいと思う。  それに、十年以上ずっと一緒だったからこそ信じられる――明となら、これから先もきっと大丈夫だと。たとえ、どのような障害があろうとも。 「あ~、ほんっと眩しい。ご飯奢ってくれるって話だったのに、ノロケまでご馳走になるとはね」 「これノロケなんすか!?」 「ノロケでしょ。はあ、若いっていいなあ」 「そんな歳変わんないでしょうに」 「もう、変わるわよっ。アタシもそんな青春、過ごせるものなら過ごしたかったし」  琥太郎はため息をついて、残りのハンバーガーを一気に頬張る。そして、紙ナプキンで口元を綺麗にすると、「ご馳走様でした」と手を合わせた。 「さてと。アオハルなお話も聞けたことだし、そろそろお暇しますか」 「あ、ハンバーガーで申し訳ないんすけど、マジありがとうございました!」 「あらま、そんなのいいわよ~。楽しかったし、高校生のお財布事情はわかってるもの。その代わりに――」 「え? ちょっ……!?」  琥太郎が妖艶に微笑んだかと思えば、千佳の首筋に顔を近づけてきた。次いで、濡れた感触とともに痺れるような鈍痛が走る。 「言ったでしょ、可愛い子が好きって。これくらいはお礼に……ね?」  唇を離すなり、琥太郎はイタズラっぽい表情で舌舐めずりをした。  千佳は嫌な予感がして、スマートフォンのカメラアプリで確認してみる。信じられないことに、千佳の首元には赤い鬱血痕が残されていた。 「ききっ、キスマーク!?」 「心配しなくても、軽くだからすぐ消えるわよ。じゃあね~」  琥太郎はクスッと笑い、手を振りながら颯爽と立ち去っていく。残された千佳は、ただ呆然とするのだった。

ともだちにシェアしよう!