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第9話 やっと隣に並べた(5)
「だったらなんだよ」
「いや、マジで誤解しないでほしいんだけど。あの人との間には何もねーから――ただ、男同士のセックスについて相談に乗ってもらっただけで……」
「はあ? お前、なに言って――」
「マ・ジ・で、誤解しないでほしいんだけど! それ以上のことは一切ねーし、これは完全に不意打ちだったしで……俺だって、わかってたら拒否ってたっつーの。お願いだから信じて、明サマ!」
自分で言っておいて微妙だ。けれど、他になんと言えばいいかわからなかった。
明はしばらく黙り込んだのち大きなため息をつく。それから、まっすぐに見つめてきて、
「俺以外のヤツに、気安く触らせてんじゃねえよ」
と、耳元に吹き込まれた囁き声は甘く、全身の血液が沸騰しそうになった。
「お前、よくそんなこと言えんなっ!?」
「恋人になったんだから当然。あと、だいたい察したからもういい。千佳がバカなのがよくわかった」
「あっ……ハイ」
「ま、さすがにこれはありえねーし、ムカつくけどな」
言いつつ鬱血の痕をなぞると、明はそこへ歯を立ててくる。ピリッとした痛みが走って、続けざまに皮膚を強く吸い上げられた。
「ちょっ、痛いって!」
「上書き完了」
明が満足げに呟いて体を離す。
鏡で確認しないまでも容易に想像できた――同じ場所に、真新しい歯形とキスマークが刻まれたのだと。
「ここっ、こんなの学校ですんなよう。ドキドキしちまうだろ?」
「だな。俺もヤバい」
見つめあえば、甘ったるい空気が二人の間に漂った。けれど、いつまでもこうしているわけにもいかず、千佳は明の体を小突いて口にする。
「……今日、部活ねえだろ? ウチ来いよ」
遊びにでも誘うかのような口ぶりだったが、明は微笑んで頷いてくれた。
それがこそばゆくて、千佳の胸はまた高鳴るのだった。
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