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第24話 愛されてもいいの?★

 遥は震えていた。やはりどうしても、自分が汚いという考えが抜けない。勢いでキスをしたものの、また身体が固まってしまった。 「大丈夫、ヨウは何もしなくていい」  唇を合わせながらそう言われ、上唇を軽く吸われる。  このひとは自分の不安も分かってくれている。それだけで安心した。彼に触れていると安心するのは、心を許しているからだと思うと、きゅ、と胸が甘く締め付けられる。  これが恋だというのなら、遥はとっくに落ちている。最初から、彼の腕の中は心地よかったから。『小井出遥』でもヨウでも、身体は許しても心はそう簡単に許さないから。 (いいのかな、恋と失恋の順番がめちゃくちゃだけど……)  永井と付き合ってから、雅樹に失恋するなんて思ってもいなかった。雅樹への想いを拗らせていたから、自覚がなかったのかも、なんて思う。  けれど失恋の痛みがあまりないのは、やはり永井の存在が大きいからだろう。そう考えると感謝しかない。  こんな、ややこしい事情を抱えた同性の人間を、好きというだけでここまでしてくれるのだから。 「ヨウ……」  名前を呼ばれて彼を見上げると、永井は間近で遥を見つめていた。ちゅ、とまた唇を吸われて、こっちだと背中を押される。  ベッドの端に永井と並んで座った遥は、ますます身体を強ばらせた。 「や、やっぱやめない?」 「やめない。ヨウが綺麗だという証明をすると言っただろう?」  そんな、と呟くと、永井は遥の額にキスをしてからベッドを降り、遥の前で跪く。片足を立て、その上に遥の左足を乗せてつま先を握った。 「……足先が冷えているな。寒くはないか?」  そう言った永井は遥の足裏を、そっと指で押す。丁度いい力加減でマッサージをされ、すぐにことを運ばないと分かると次第に身体から力が抜けていった。 「綾原さんが、ヨウは交感神経が優位にあることが多いから、常に気を張ってるんじゃないかと言っていた」 「……だって、人前で寝たら何されるか分かんないし……」 「それ、綾原さんにも言っていたそうだな。怖かっただろう……」  そう、起きたら谷本が上にいたとか、知らないひとが隣にいたとか、そういうことが稀にあった。大抵その時は身体を好きにされていて、こんな醜聞、マスコミに知られたらと言えずにいたのだ。  だからこそ食事に行った時、永井に「帰りたくない」と言って眠ってしまったことは、遥にとって大きなことだった。やはり初めから心を許していたんだな、と思う。そしてそれはイコール好きだったんだ、と。 「……足が温まってきたな。靴下を脱がせてもいいか?」 「……うん」  しばらくマッサージをしてもらい、足先の冷えが取れたところで靴下を脱がされる。丁寧に脱がせる様子を見ていると、大事にされているなぁ、とまた涙が浮かんだ。  しかし、その涙は次の瞬間、すぐに引っ込む。  永井が遥の足の指に、キスをしたからだ。 「え、ちょ、……永井さん?」 「ヨウは足の指まで綺麗だ」  戸惑う遥をよそに、永井はちゅっちゅと足にキスを落としていく。くすぐったくて身をよじると、彼はこともあろうに遥の足の親指を、ぱくりと咥えた。 「うっ! やだ、いやだ、くすぐったい……っ」 「……くすぐったいだけか?」  そう言われて、確かにほんの少しだけ覚えのある感覚があるけれど、と思った。思ったけれど言わない。こんな状況、恥ずかしすぎるから今すぐにやめて欲しい。 「くすぐったいだけ! それに、シャワーも浴びてないのに、そんなところ……!」 「ヨウは綺麗だと言っているだろう」  そう永井は言って、何事もなかったかのように足指を舐める。わざとなのか、ちらりと舌を見せながら指の間も丁寧に舐められ、そのビジュアルにうなじの辺りがチリチリした。 「……っ」  ぬるりと、温かいものが敏感なところをくすぐる。確かにくすぐったいけれど、だんだんその奥にあった小さな感覚が、比率を占めていくことに戸惑いを覚えた。 「な、永井さ……」 「こういう時くらい、和博と呼んでくれないか?」  そう言われ、かあっと顔が熱くなる。するとくすぐったかった足がなぜか完全に快感に変わり、イヤイヤと首を振った。 「和博さん、やめて……」  消え入りそうな声で遥はお願いすると、永井はやめてくれる。そして遥の手を取りその甲にキスをした。 「ヨウはどこが気持ちいいんだ? 私が全部愛してあげよう」  そんなことを聞かれて、素直に言える遥ではない。下から見上げてくる永井の目線と合わせられず、逃げるように顔を背けて首を振る。 「……分かった」  そんな声がして、何が分かったのだろうと思っていると、永井は遥のベルトを外し始めた。まさか、と思って手を掴もうとするけれど、片手は永井に掴まれているし、彼の方が器用だった。  寛げられた前を手で隠そうとすると、その手も掴まれる。 「綺麗だよ。ヨウはどこも汚くない」  そう言って、永井はそこに顔をうずめる。下着越しに、まだ柔らかい遥を彼が食んでいくビジュアルに耐えきれず、ギュッと目を閉じた。  チリチリとうなじ辺りが痺れる。 「か、和博さん……やめて……」 「では、自分が汚くないと認めるか?」  彼の問いに薄目を開けて見ると、永井はじっとこちらを見ていた。その視線にも耐えきれず、顔を逸らして首を振る。  すると、永井が動いた。彼は遥の下着をずらし、柔らかい遥をこともあろうに取り出す。そしてそれを、足の指を咥えたように、口に含んだ。 「……っ!」  途端にハッキリとした快感が背筋を走る。甘い吐息が漏れるのを我慢して息を詰め、手の甲で口を押さえた。  こんな優しい愛撫は初めてだ。しかも永井は自分も気持ちよくさせろと要求することもない。だから本当に、遥を気持ちよくしてくれようとしているのだと思ったら、どうしようもなく感じてしまった。 「は……っ」  思わず耐えきれなくなって息を吐き出す。それはもう甘く湿っていて、永井がチラリとこちらを見た気配がした。 「かわいい、ヨウ」  嬉しそうな声がして、なぜかそれにもゾクゾクしてしまう。永井が口に含んだ箇所は次第に敏感になっていき、硬くそそり立っていった。嫌と思っていても触れられたら勃つのが嫌で、遥は首をブンブンと振る。 「やだ……っ、こんなの……!」  しまいには涙が出てきてしまった。これが愛だから受け入れなさい。そんな谷本の声が聞こえた気がして、えぐえぐと泣いてしまう。 「ヨウ」  けれど、下から聞こえるのは男のひとの声だ。私を見なさい、と言われてそろそろと見ると、口を離した永井がいた。 「和博、さん……」 「ヨウは私が好きか?」  こくん、と遥は頷く。 「私もヨウが好きだ。一番好きなひとが、私の手で気持ちよくなっている姿が見たい」  それが私の喜びだ、と言われて、また口に含まれた。 「あ……っ」  思わず声を上げてしまって、手で口を塞ぐ。しかし永井はその手を握って、両手を捕まえてしまった。 「声も聞かせてくれ」  永井の声が微かに掠れている。よく見ると汗もかいていた。じっとこちらを見ながら口淫を続ける彼を見て、腰の辺りがゾクゾクして跳ねる。 「あ、やだっ、やめて……っ。ねぇ、やめてよぉ……っ」  自分から信じられないほど甘い声が出た。ぐすぐすと泣きながら、情けないことこの上ないのに、永井は遥を口に含んだまま、かわいい、かわいいと先端を唇で擦っていく。  途端にまた腰が跳ねて、覚えのある感覚が迫ってきた。それに耐えるためにギュッと手を握ると、永井も手を握り返してくれる。 「は、放してっ。いく、……出るから……っ! ──ああっ!」  掠れた高い声を上げて、遥は頂点に達してしまった。

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